新居洋子

新居洋子（にい ようこ）氏は、1979年に東京都で生まれた、現代日本を代表する気鋭の歴史学者の一人です。

経歴と学問への道

新居氏の学問への道は、やや異色のスタートを切りました。国立音楽大学附属高等学校普通科を経て、国立音楽大学音楽学部音楽学学科を卒業しています。その後、学問の関心分野を大きく転換し、2004年には桜美林大学大学院国際学研究科で修士課程を修了しました。さらに深く歴史学を探求するため、東京大学大学院人文社会科系研究科に進学し、アジア文化研究専攻にて研鑽を積みました。そして、2012年に同博士課程を修了し、東京大学から博士（文学）の学位を授与されました。

職歴

博士課程修了後、新居氏はその学術的な能力を活かし、様々な機関で研究活動に携わりました。東京大学東洋文化研究所国際学術交流室では特任助教として勤務し、国際的な視点からの研究交流に貢献しました。また、日本学術振興会特別研究員としても活動し、自身の専門分野における研究を深化させました。こうした経験を経て、現在は大東文化大学文学部にて准教授を務め、教育と研究の両面で精力的に活動しています。

研究分野と主な業績

新居氏の主な研究分野は、中国近世史、特に明末清初におけるイエズス会宣教師の活動を通じた東西文明の交流史です。宣教師たちがヨーロッパの科学、技術、思想を中国に伝え、また中国の文化や知識をヨーロッパに紹介した過程を、「文明の翻訳」という視点から詳細に分析しています。このテーマにおける氏の画期的な研究成果は、2017年に名古屋大学出版会から刊行された著書『イエズス会士と普遍の帝国―在華宣教師による文明の翻訳―』に結実しています。この著作は、当時の中国とヨーロッパがどのように互いを理解し、影響を与え合ったのかを、膨大な史料に基づいて克明に描き出し、従来の文化交流史研究に新たな視角をもたらしました。

受賞歴

『イエズス会士と普遍の帝国』は、その学術的な価値と独創性が高く評価され、日本の学術界における主要な賞を複数受賞しました。まず、著書刊行に先立つ2015年には、東方学会賞を受賞し、その研究の将来性が早くから認められていました。そして、2018年7月には、優れた研究書に贈られる第35回渋沢・クローデル賞本賞を受賞。さらに同年12月には、人文科学分野で特に権威のある賞の一つである第40回サントリー学芸賞（思想・歴史部門）を受賞するという快挙を成し遂げました。これらの受賞は、新居氏の研究が単なる専門分野に留まらず、広く人文科学全体に大きな影響を与える重要な貢献であることを示しています。

今後の展望

新居洋子氏は、複雑な歴史上の文化交流を、「翻訳」という概念を用いて鮮やかに解明する独創的なアプローチで、注目を集める歴史学者です。その研究は、現代における異文化理解や国際交流のあり方を考える上でも多くの示唆を与えています。今後も、中国とヨーロッパの文化交渉史というフロンティア分野において、さらなる研究の発展と新たな著作の刊行が期待されています。

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