新本義民騒動

新本義民騒動とは

新本義民騒動（しんぽんぎみんそうどう）は、江戸時代中期に備中国下道郡（現在の岡山県総社市）で発生した農民一揆です。この騒動は、岡田藩による過酷な森林資源の収奪と労働賦課に対し、新本地区の農民たちが立ち上がり、藩に抵抗した事件です。特に、この騒動で犠牲となった4人の農民は「義民四人衆」として称えられています。

騒動の背景

1615年、岡田藩は藩領内の共有林であった入会山を藩有林として取り上げ始めました。この政策は、1661年頃には新庄村と本庄村（現在の総社市新本地区）にも及び、入会山は「留山」として村民の立ち入りが禁じられました。さらに、1716年頃には、残されていた共有山も藩に取り上げられ、伐採された木材を藩庁のある岡田村まで運搬する労働が村民に課せられるようになりました。しかし、その運搬賃金は非常に低く、重労働と農作業の時間を奪われ、村民の生活は困窮しました。

農民たちの抵抗

生活に行き詰まった新庄・本庄両村の農民たちは、1717年に会合を開き、留山の返還と木材運搬の中止を求める嘆願書を藩に提出しました。しかし、藩との交渉は難航し、一部の山林開放が認められたものの、村民は全山林の返還を諦めず、その決意を示すため、神文血判を行い、稲荷山の巨岩下に埋めたと伝えられています。その後、藩と村民の間で調停が成立し、一旦は和解しましたが、1718年、藩は許可されていない木々の伐採が行われたとして、取り締まりを強化し、盗伐の疑いで村民に出頭を命じました。しかし、誰も出頭しなかったため、藩と村民の対立は激化し、庄屋が投獄される事態となりました。

義民四人衆の直訴

事態を打開するため、農民たちは藩主・伊東長救に直訴することを決意し、松森六蔵、荒木甚右衛門、森脇喜惣治、川村仁右衛門の4人を代表として江戸へ派遣しました。代表者たちは要求書を藩主に提出することに成功しましたが、その代償として、4人は反上の罪で処刑され、家族は国外追放、財産没収という過酷な処分を受けました。

義民四人衆の最期

1718年6月7日、4人は新本川の河原で村民の目の前で処刑されました。その無念を晴らすため、村民たちは彼らを義民として称え、手厚く弔いました。現在も、それぞれの出身地に墓が残っています。

年譜

1615年：岡田藩が領内の入会山を藩有化し始める。
1661年頃：新庄・本庄両村の入会山の留山化が始まる。
1716年頃：新庄・本庄両村の大部分の入会山が留山となる。木材運搬の賦役が始まる。
1717年1月：農民が嘆願書を藩に提出。交渉開始。
1717年3月15日：神文血判を行い、稲荷山の巨岩下に埋める。
1717年4月14日：制限付きで留山の一部開放が調停成立。
1717年12月30日：藩が盗伐を疑い、取り締まりを強化。
1718年2月13日：義民四人衆が江戸へ出発。
1718年3月4日：藩主への直訴成功。
1718年6月7日：義民四人衆が処刑される。

義民社と義民碑

騒動後、新庄・本庄両村の村民は、義民四人衆の霊を弔うために義民社を建立しました。義民社は現在、総社市立新本小学校の裏手にあります。また、処刑された場所には、義民四人衆を称える義民碑が建てられました。この碑は、近代に建て替えられたもので、犬養毅の揮毫によるものです。

起誓岩

起誓岩は、新本地区の稲荷山にある岩です。これは、1717年3月15日に村民たちが全留山の返還を誓い、神文血判を埋めた場所とされています。この出来事は、農民たちの固い決意と結束を象徴するものとして、語り継がれています。

参考文献

岡山県大百科事典編集委員会『岡山県大百科事典』山陽新聞社
巌津政右衛門『岡山地名事典』日本文教出版社
総社市郷土学習推進委員会『わたしたちのふるさと「総社」誇りに思う人々』総社市教育委員会（1991年）
岡山県歴史人物事典編纂委員会『岡山県歴史人物事典』山陽新聞社（1994年）
太田健一『倉敷・総社の歴史』郷土出版社（2009年）

関連事項

岡田藩
一揆
義民

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