新治伸治

新治伸治：東大野球部からプロ野球選手へ、そして実業家としての人生

新治伸治（にいはり しんじ）は、1941年7月31日生まれ、2004年5月4日没。東京大学野球部出身のプロ野球選手として、その名を歴史に刻んだ人物です。彼の生涯は、学業とスポーツ、そしてビジネス界での成功という、一見すると矛盾する要素が複雑に絡み合い、ドラマチックな展開を見せています。

学生時代：東大野球部での苦闘

中学生時代は野球で頭角を現し、東京都中学生憲法記念野球大会で優勝を飾るなど、早くから才能を覗わせていました。しかし、高校時代は硬式野球部が存在せず、軟式野球でプレー。それでも東京都少年野球大会優勝という輝かしい実績を残しています。

大学進学を希望した新治は、当初は早稲田大学を目指していました。しかし、早稲田大学硬式野球部への入部が難しいと知り、軟式野球経験者でも活躍できる可能性が高いと判断し、東京大学経済学部への進学を決意します。

東大野球部での日々は、決して順風満帆ではありませんでした。在籍した1961年から1964年にかけて、東京六大学野球リーグでは8季連続最下位という苦杯を嘗めることになります。通算成績は8勝43敗、防御率3.21、149奪三振。43敗という数字は、現在もリーグ史上最多敗戦記録として残っています。しかし、新治は東大が勝利した全ての試合で勝利投手としてチームを支えました。この経験は、後に彼のプロ野球でのキャリアにも大きく影響することになります。

プロ野球への道：大洋ホエールズ時代

卒業後、住友金属やサッポロビールといった企業からの誘いを受けながらも、新治は1965年に大洋漁業（後のマルハニチロ）に入社します。そして、球団オーナー中部謙吉氏の一言「南氷洋に2、3年行ったつもりで、ちょっとプロで投げてみなさい」をきっかけに、大洋ホエールズへの出向という形でプロ野球選手としての道を歩み始めます。

東大出身者として初のプロ野球選手となった新治でしたが、当時のプロ野球界にはドラフト制度がありませんでした。そのため、契約金を受け取らず、給料は特別業務手当として20万円という条件でプロ入りしています。これは、契約金を受け取ると辞められなくなるという彼の強い意志の表れでした。

プロ入り1年目の1965年には、6月12日の中日戦で初先発。10月18日にはサンケイの佐藤進投手と投げ合い、完投勝利を挙げます。同年は40試合に登板し5勝を挙げ、ジュニアオールスターにも出場するなど、活躍を見せました。1966年もリリーフとして4勝を記録しますが、1967年以降は登板機会が減少。1968年限りで現役を引退します。引退後も、会社員としての身分はそのまま維持されました。

ビジネス界での成功：大洋漁業からマルハニチロへ

現役引退後は、大洋漁業に復帰し、貿易部、北米駐在勤務（カリフォルニア株式会社）などを経て、海外事業本部・秘書課、支店長や支社長を歴任します。その後は、マルハ系列のゴルフ場運営会社である大洋クラブの社長や横浜ベイスターズ球団顧問を務めるなど、ビジネス界でも大きな成功を収めました。2004年4月には東京六大学野球春季リーグ戦開幕戦で始球式を務めたものの、同月5月4日、急逝。62歳でした。

選手としての特徴と「東大病」

新治の投球スタイルは、やや変則的なフォームから繰り出すキレのあるストレートと、縦の変化球が武器でした。しかし、学生時代は常にリードされている状況で投げる機会が多く、「負け戦が当たり前」という状態に慣れてしまっていました。そのため、味方がリードしている状況ではかえって落ち着かないという「東大病」に悩まされました。プロ入り後4年間かけて克服した矢先に引退という、なんとも皮肉な結末を迎えることになります。

新治伸治の生涯は、困難を乗り越え、常に挑戦を続ける人生の物語として、後世に語り継がれるべきでしょう。東大野球部初のプロ野球選手という偉業のみならず、ビジネス界での活躍も合わせ、その人生は多くの示唆を与えてくれます。

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