新治郡 (常陸国)

新治郡（にいはりぐん）とは

新治郡は、古代律令制下の常陸国に存在した郡です。大化の改新以前は新治国という国造の支配下にあり、律令制施行に伴い常陸国新治郡となりました。常陸国の西部に位置し、下野国や下総国と接していました。後に真壁郡を分出しています。

平安時代に編纂された辞書『和名類聚抄』には「爾比波里（にひはり）」、古事記には倭建命（やまとたけるのみこと）の歌に「邇比婆利（にひばり）」と記されています。この地名は、古代からこの地域が重要な場所であったことを示唆しています。

なお、2006年まで存在した茨城県新治郡（にいはりぐん）は、呼称こそ同じですが、領域は異なる別物です。

郡内の郷

『和名類聚抄』によると、新治郡には以下の13の郷がありました。

坂戸郷
竹嶋郷
沼田郷
伊讃郷
博多郷
巡廻郷
月郷
大幡郷
新治郷
下真郷
巨神郷
井田郷

現在の茨城県笠間市、筑西市、桜川市が、この郡の領域にあたると考えられています。

倭建命と新治

古事記には、東征を終えた倭建命が、帰路の甲斐で詠んだ歌に新治が登場します。

「新治　筑波を過ぎて幾夜か寝つる」

この歌に対し、従者が「日々並べて　夜には九夜　日には十日を」と答えたという記述があります。この歌は、倭建命が新治の地を通過した際の情景を伝えています。

新治郡衙

奈良時代、律令制下の地方行政機関として新治郡衙が設置されました。現在の筑西市古郡地内に位置し、発掘調査により庁舎跡や倉庫跡など計51棟が確認されています。また、『日本後紀』に記された817年の火災に関する記述と符合する建物跡や、多量の炭化した米も発見されています。この遺跡は、1968年に新治郡衙跡として国の史跡に指定されました。

新治寺

新治郡衙と同じく奈良時代に建立された寺院で、現在の筑西市久地楽及び古郡地内にありました。発掘調査の結果、金堂と東西に伽藍が配置された寺院であったことが判明しています。出土した古瓦の中には、文字が刻まれたものも見つかっています。この遺跡は、1942年に新治廃寺跡（附上野原瓦窯跡）として国の史跡に指定されました。

郡の解体と再編

7世紀末から8世紀初頭にかけて成立した常陸国の郡は、律令制の動揺とともに、在地豪族などによって細分化、再編が進みました。

新治郡からはまず、小栗御厨が伊勢神宮領として分出しました。残った領域は、東郡、中郡、西郡の三郡に分割され、さらに西郡は北条と南条に分かれました。

西郡北条：伊佐郡
西郡南条：関郡

1594年、太閤検地によって再び新治郡が成立しましたが、この新治郡は、古代の茨城郡、筑波郡、信太郡のそれぞれ一部から構成されており、古代の新治郡とは領域が全く異なります。近世以降、近代を経て2006年に消滅した茨城県の新治郡は、この新治郡にあたります。

一方、古代の新治郡から分立した郡・荘のうち、中郡は西那珂郡として独立。東郡（笠間郡）は茨城郡、関郡が河内郡、下妻荘の東部が筑波郡の一部となり、それ以外は真壁郡の一部となりました。

1702年には、中郡から編成された西那珂郡が茨城郡へ、関郡から編成された（西）河内郡も真壁郡に編入されています。

まとめ

新治郡は、古代から中世、そして近世にかけて、その姿を変えながら歴史を刻んできました。郡衙や寺院跡は、古代の律令国家における地方支配の様子を伝えています。また、郡の分割と再編は、時代の流れとともに変化する地方行政のあり方を示しています。

関連項目

* 消滅した郡の一覧

もう一度検索