新田伸三

新田 伸三

新田 伸三（にった しんぞう）は、大正9年（1920年）3月6日に京都府京都市東山区で生まれ、平成9年（1997年）7月にその生涯を閉じた、日本の造園学者、造園家、そして教育者です。彼は特に緑化工学の分野で顕著な功績を残し、法面緑化の手法や、運動場の土質構造に関する研究を専門としました。農学博士の学位を有し、後進の育成にも力を尽くしました。

学問と実務のキャリア

新田伸三氏は、昭和16年（1941年）に徳島高等工業学校土木工学科を卒業後、一旦大阪市役所に勤務しますが、学問への志から京都帝国大学農学部に入学します。大学在学中には勤労動員も経験しましたが、卒業後は同大学農学部の助手として造園学の研究教育の道に進みました。この時期、昭和24年（1949年）には、後の日本造園学会誌となる「造園雑誌」の表紙図案募集で当選するなど、才能の一端を示しています。また、同学会が創設した第1回日本造園学会賞を「樹林の遮音効果に関する実験的研究」で受賞しており、初期の研究成果が高く評価されました。

昭和32年（1957年）には京都大学農学部の助教授に昇任し、教育・研究活動を続けます。昭和36年（1961年）には『運動場走路の構造に関する研究』で農学博士の学位を取得。この運動場の土質構造に関する研究は、後に東京オリンピックの競技場走路設計にも活かされることになります。

京都大学でのキャリアを積む一方で、新田氏は造園の実務にも深い関心を持っていました。昭和37年（1962年）に京都大学を辞し、日本道路公団へ転じます。ここでは参事や調査役として、主に高速道路の法面緑化や造園設計の指導に従事しました。傾斜地である法面の緑化は、道路構造の保護や景観向上に不可欠な技術であり、彼の緑化工学の知識と研究が実務に直結する場となりました。日本道路公団では、大阪、名古屋の建設局や試験所、技術部など、様々な部署でその手腕を発揮しました。

昭和45年（1970年）、新田氏は教育の場に戻り、新設された九州芸術工科大学芸術工学部環境設計学科の教授に就任します。ここでは、研究者、実務家としての豊富な経験を基に、環境デザイン分野の教育・研究体制の確立に貢献しました。大学では学生部長も務め、大学運営にも尽力しました。その後、昭和57年（1982年）には名城大学農学部の教授としても教鞭を執り、平成4年（1992年）に退職するまで、多くの学生を指導しました。

学会活動と社会貢献

新田氏は、学術研究の発展と社会への普及にも積極的に取り組みました。日本造園学会では理事や副会長を歴任し、学会活動の中心的な役割を担いました。また、専門である緑化工学分野の発展のため、日本緑化工学会の会長も務めました。これらの活動を通じて、学術研究の推進と技術の普及に大きく貢献しています。

さらに、愛知県、名古屋市、北九州市の都市景観審議会委員や、佐賀県名護屋城跡保存整備委員会委員など、様々な審議会や委員会のメンバーとしても活動し、自然環境の保全や都市・地域の景観形成、歴史遺産の保存など、幅広い分野で専門的な知見を提供し、社会貢献を行いました。

主な実績と著作

新田氏の実績は多岐にわたります。代表的な造園作品としては、大阪府営服部緑地大花壇、奈良県の霊山寺バラ庭園や壺坂寺香りの園、神奈川県立フラワーセンター大船植物園などがあります。技術的な貢献としては、東京オリンピック競技場走路の土質設計、旧日本住宅公団香里団地や旧日本道路公団での法面保護に関する研究などが挙げられます。

彼の研究成果や実務経験は、多くの著書としてまとめられています。『環境緑化における微気象の設計』、『植栽の理論と技術』、『造園技術』、『造園技術大成』、『土木工事ののり面保護工』などがあり、これらは後進の研究者や技術者にとって貴重な教科書、参考書となっています。

受賞

長年の功績に対し、新田伸三氏は数々の栄誉を受けました。第1回日本造園学会賞のほか、平成元年（1989年）には第11回日本公園緑地協会北村賞、平成6年（1994年）には日本緑化工学会賞を受賞しています。特に、平成6年には国の栄典である勲三等瑞宝章を受章し、その功績が広く認められました。さらに、平成7年（1995年）には日本造園学会上原敬二賞を受賞しており、造園分野におけるその貢献の大きさが改めて示されました。

新田伸三氏は、造園学、特に緑化工学という分野において、研究、教育、実務の三つの側面から多大な貢献をした人物です。彼の研究成果は、法面緑化や運動場走路といった具体的な技術に活かされ、日本の国土緑化や都市環境の整備に寄与しました。また、教育者として多くの人材を育成し、学会活動を通じて学術分野の発展に貢献しました。その生涯は、学問と実務を結びつけ、社会に貢献した模範的なキャリアとして記憶されています。

もう一度検索