新石器時代のヨーロッパ

ヨーロッパの新石器時代：農耕社会の到来と文化の拡散

ヨーロッパの新石器時代は、中石器時代と青銅器時代の中間に位置し、およそ紀元前7000年から紀元前1700年頃まで続いた時代です。地域によって開始時期や終了時期は異なり、青銅器の導入によって新石器時代は終焉を迎えます。南東ヨーロッパでは約4000年間（紀元前7000～紀元前3000年）、北西ヨーロッパでは3000年弱（紀元前4500～紀元前1700年）に渡って続きました。

新石器時代の生活

新石器時代のヨーロッパの人々は、小規模な共同体を形成し、平等主義的な社会構造を築いていたと考えられています。家族単位の共同体を中心に、家畜や農作物を栽培し、狩猟や採集も併せて生活を営んでいました。特徴的なのは、ろくろを使わず手で作られた土器の存在です。しかし、地域によって生活様式は大きく異なり、南東ヨーロッパの一部では数千人が居住する大規模な集落もあった一方、イングランドなどでは小規模な遊牧民集団も存在していました。

起源と文化の伝播

考古学的な証拠からは、新石器時代の文化は西南アジアのレバント地域で発生し、その後ヨーロッパへと伝播していったと考えられています。紀元前6500年頃にはエーゲ海地域に、その後バルカン半島や南中央ヨーロッパへと広がっていきました。新石器時代の遺跡からは、西南アジアで家畜化された小麦、大麦、レンズ豆などの農作物や、豚、羊、山羊などの家畜の遺骸が発見されており、これらの動植物が西南アジアからヨーロッパへと持ち込まれたことを示しています。遺伝学的研究も、新石器時代の家畜はすべて西南アジア起源であることを裏付けています。

西アナトリアを経由してヨーロッパに伝わったと考えられる新石器時代の物質文化は、比較的均質な様相を示しており、エーゲ海からブリテン島まで、約2500年かけてヨーロッパ全土に広まりました。バルト海地域やハンガリー平原への到達は幾分か遅れました。また、放射性炭素年代測定の結果からは、中石器時代と新石器時代の集団が1000年近く共存していた地域もあったことがわかっています。

言語と人口移動

新石器時代のヨーロッパの人々の言語については、様々な説があります。マリヤ・ギンブタスは、新石器時代の文化を「古ヨーロッパ」と呼び、インド・ヨーロッパ語族の拡大は青銅器時代以降とする説を唱えています（クルガン仮説）。一方、ピーター・ベルウッドとコリン・レンフリューは、インド・ヨーロッパ語族を含む主要な語族は新石器革命と関連しており、農耕民の人口増加と拡大によって言語が伝播したという仮説を提唱しています（レンフリュー＝ベルウッド仮説）。この仮説は、考古学的、言語学的、遺伝学的知見を統合したものです。

レンフリュー＝ベルウッド仮説は、アナトリア起源の農耕民の移住と遺伝的混合によって、ヨーロッパの人口構造が変化していったというものです。彼らの主張する遺伝的勾配は、アナトリアからヨーロッパ北部へ向かうにつれて、アナトリア起源の遺伝子頻度が低下していくパターンを示しています。これはクルガン仮説とは対照的な見解です。

中石器時代の人々と言語

ヨーロッパには、新石器時代の農耕民到来以前から、ホモ・サピエンスが居住していました。最後の氷期には厳しい気候条件下で生活していましたが、氷河の後退とともに北方へと移動していきました。新石器時代の農耕民の到来後も、中石器時代の人々は一部地域で生き残ったと考えられています。バスク人やフィン人などがその例として挙げられます。彼らの言語や遺伝的特徴は、新石器時代の農耕民とは異なる特徴を持っています。

新石器時代の文化と遺跡

ヨーロッパの新石器時代には、様々な文化が栄えました。スタルチェヴォ文化、ヴィンチャ文化、線帯文土器文化、櫛目文土器文化など、地域によって独特の文化が発展しました。また、巨大な環状列石やストーンヘンジなど、壮大な遺跡も残されています。これらの遺跡は、新石器時代の社会構造や精神文化を理解する上で重要な手がかりとなります。

まとめ

ヨーロッパの新石器時代は、農耕社会の到来、文化の拡散、そして言語の変遷といった、多様な要素が複雑に絡み合った時代でした。考古学的、遺伝学的、言語学的など様々な視点からの研究によって、その実像が徐々に明らかになりつつあります。しかし、未だ多くの謎が残されており、今後の研究が待たれます。

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