新関公子

新関 公子（にいぜき きみこ）は、1940年10月10日、新潟県長岡市に生まれた日本の美術史学者であり、東京藝術大学名誉教授の肩書きを持つ研究者です。

彼女の学術的な道のりは、1959年に新潟県立柏崎高等学校を卒業後、東京芸術大学の美術学部芸術学科へと進学したことから始まります。1963年に同学部を卒業し、さらに研鑽を積むために同大学院の修士課程に進み、1965年にこれを修了しました。大学院での学びを終えた後、新関氏は東京芸術大学付属芸術資料館（現在の東京芸術大学美術館）に奉職し、1974年までその職務にあたりました。

キャリアの初期において、海外での見聞を広める機会も得ています。1968年にはフランス政府の給費留学生として渡仏し、パリのエコール・デュ・ルーヴルにて博物館学に関する研修を受け、専門的な知識を深めました。この海外での経験は、その後の研究活動にも影響を与えたことでしょう。

美術館の運営や準備に関わる経験も積んでいます。1982年から1987年にかけては、開館を控えていた横浜市美術館の開設準備室で勤務し、新しい美術館の立ち上げに携わる貴重な経験をしました。

長年の研究と実務経験を経て、2002年には母校である東京芸術大学に戻り、東京藝術大学美術館の教授に就任しました。教育者、研究者として後進の指導にあたるとともに、自身の研究活動も続けました。2008年に東京藝術大学を退職し、長年の功績が認められ名誉教授の称号を授与されました。

新関氏の研究対象は多岐にわたり、幅広いテーマで重要な著作を発表しています。特にフィンセント・ファン・ゴッホとその弟テオの関係に焦点を当てた研究は高く評価されています。2011年に刊行された著書『ゴッホ 契約の兄弟 フィンセントとテオ・ファン・ゴッホ』（ブリュッケ）は、その綿密な考察と洞察が認められ、2012年には権威ある吉田秀和賞を受賞しました。

ゴッホ研究以外にも、日本の文豪と芸術の関係にも深い関心を寄せています。夏目漱石の美術に対する視点を探求した『「漱石の美術愛」推理ノート』（平凡社、1998年）や、森鷗外と画家・原田直次郎の交流を描いた『森鷗外と原田直次郎 ミュンヘンに芽生えた友情の行方』（東京藝術大学出版会、2008年）などがあります。また、セザンヌとゾラの芸術と友情に迫った『セザンヌとゾラ その芸術と友情』（ブリュッケ、2000年）や、書家として知られる良寛を芸術家の視点から論じた『根源芸術家 良寛』（春秋社、2016年）、さらには浮世絵師である喜多川歌麿の生涯に迫る『歌麿の生涯 写楽を秘めて』（展望社、2019年）など、多様な分野の研究成果を発表しています。近年には、東京美術学校の歴史に光を当てる著書『東京美術学校物語』（岩波新書）の刊行も予定されています。

これらの著作活動に加え、新関氏は美術史を学ぶための教科書ともいえる『イメージとテキスト 美術史を学ぶための13章』（ブリュッケ、2007年、稲本万里子・池上英洋編）の監修も手掛けています。また、海外の重要な美術に関する文献の翻訳も数多く行っており、サルバドール・ダリ、グスタフ・クリムト、マックス・エルンスト、シュルレアリスム絵画に関する専門書の日本語訳を手掛け、日本の美術研究者や愛好家が海外の最新の研究や情報に触れる機会を提供しています。

美術史学者としての長年の研究、教育、そして美術館実務にわたる幅広い経験と活動を通じて、新関公子氏は日本の美術史学界に多大な貢献をしています。特に、西洋美術史、日本美術史、そして文学や異分野との関わりといった多様な視点からのアプローチは、多くの研究者や学生に示唆を与えています。

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