新青年 (中国)

新青年：中国近代化を揺るがした雑誌

1910年代の中華民国、中国の思想界に革命的な変化をもたらした雑誌『新青年』。本稿では、その創刊から終焉まで、中国近代化における『新青年』の役割と影響を詳細に解説します。

儒教社会からの脱却と新文化運動

約2000年間続いた儒教中心の社会構造は、1905年の科挙廃止後も依然として中国社会に深く根付いていました。しかし、世界情勢の変化や、辛亥革命がもたらした成果の限定性、第一次世界大戦下の列強による中国分割の危機感、そして袁世凱政権による日本の「対華21ヶ条の要求」の受容など、中国の近代化への道は険しいものでした。こうした状況下で、中国再生を願う「新文化運動」が台頭し、『新青年』はその中心的な役割を担いました。

1915年9月15日、上海で創刊された『新青年』（当初は『青年雑誌』）。「民主と科学」をスローガンに、近代西欧の思想や概念を積極的に取り入れ、中国社会の変革を目指しました。

文学革命と新たな思想の導入

『新青年』の執筆陣には、胡適、陳独秀、魯迅、李大釗といった錚々たる顔ぶれが名を連ねました。胡適はアメリカ留学中に執筆した「文学改良芻議」で、古典文語からの脱却と白話文による文章表現の改革を提唱。陳独秀はこれを基に「文学革命」を正式に宣言し、2000年もの間、中国社会を支配してきた儒教の呪縛からの解放を訴えました。魯迅は『狂人日記』で、儒教の表裏一体性を鋭く批判し、個人の精神的抑圧を描き出しました。一方、李大釗はロシア革命の影響を受け、マルクス主義を中国に紹介。これらの活動は、中国の知識層に大きな衝撃を与え、近代的な思考様式への転換を促しました。

多様な論調と内部対立

『新青年』は、人文科学、社会科学など幅広い分野を網羅する総合雑誌として発展。最盛期には1万6000部もの発行部数を誇りました。しかし、ロシア革命の評価やマルクス主義の受容を巡り、内部では次第に対立が深まりました。陳独秀と李大釗はレーニンのボルシェビズムに共鳴し、中国共産党の結成に深く関与するようになり、『新青年』は次第に中国共産党の機関誌的な性格を帯びていきました。

これに対し、胡適はアメリカモデルによる近代化を主張し、魯迅や周作人もボルシェビズムの専制的な側面に懸念を抱き、雑誌から離れていきました。

終焉

最終的に『新青年』は、1922年7月に休刊。中国近代化に多大な影響を与えた雑誌は、内部対立という形でその歴史に幕を閉じました。しかし、『新青年』が提起した課題や思想は、その後も中国の思想界、社会に大きな影響を与え続けました。その功績は、中国近代史において特筆すべきものと言えるでしょう。

参考文献

井ノ口哲也著『入門中国思想史』（2012年）勁草書房
小島晋治・丸山松幸『中国近現代史』（1986年）岩波新書
* 藤井省三『魯迅ー東アジアを生きる文学』（2011年）岩波新書

もう一度検索