日本バプテスト基督教団

日本のバプテスト派において、戦時下の国家統制に対応するために一時的に形成された合同教派が、この日本バプテスト基督教団です。1940年1月、当時国内で活動していた主要なバプテスト系団体が合同して設立されました。

この合同が実現するまで、日本のバプテスト教会は主に二つの組織に分かれていました。一つは関東地方を中心に展開していた日本バプテスト東部組合、もう一つは関西地方などを拠点としていた日本バプテスト西部組合です。両組合はそれぞれ独自の歴史を持ち、宣教活動を行っていましたが、1939年に公布され、翌年施行された宗教団体法への対応が迫られる中で、合同による単一組織の形成へと動きました。これは、政府による宗教団体への統制強化という時代の流れを受けたものでした。

合同に向けた年会が開催され、そこで新たな合同団体の指導者として千葉勇五郎が選出され、「統理」として教団を率いることになりました。この合同によって、名実ともに日本のバプテスト派は一つにまとまった形となりました。

さらに翌年の1941年には、日本の多くのプロテスタント教派が政府の指導のもとに合同し、日本基督教団が成立しました。日本バプテスト基督教団もこの流れに組み込まれ、日本基督教団内に設けられた11の「部」の一つ、第4部として参加しました。指導者であった千葉勇五郎は、日本基督教団の参与という重要なポストにも就任しています。このように、日本バプテスト基督教団は、戦時下の宗教界再編の波に乗り、大きな合同組織の一部となっていきました。

しかし、この合同には、バプテスト派本来の教会論との間で内在的な緊張関係がありました。バプテスト派は伝統的に「各個教会主義」を重んじる傾向があります。「公同の教会」と呼ばれる普遍的な教会は、具体的な個々の教会が集う会衆の中にこそ現れる、という考え方です。これは、中央集権的な教団組織よりも、個々の教会の自律性や独自性を重視する立場を示します。

このような教理的背景を持つバプテスト派にとって、上からの圧力によって行われた合同、さらに他の教派との単一教団への参加は、必ずしも自然なことではなかったと言えます。合同年会で指導者に選ばれた千葉勇五郎は、この合同が「祈り求めていたことが新情勢の故に聞かれた」ものだと、当時の状況を受け入れつつ前向きに語りました。しかし、歴史家の小野静雄氏は、バプテスト派の伝統に照らせば、この強制的ともいえる合同は「苦痛で不自然」なものであり、「追いがたい苦痛」を伴う出来事であったと、より批判的な見解を示しています。そして、小野氏は、このような合同の内実における不自然さや矛盾が、第二次世界大戦後の日本基督教団からのバプテスト系の教会の離脱や、教団の再編・分裂の根拠となったと分析しています。

結果として、日本バプテスト基督教団という組織は、戦後の宗教の自由化の中で、その使命を終え、そこから再び複数のバプテスト系教団・連盟が分かれて活動を再開することになります。この短命な組織の歴史は、戦時下の特殊な状況における日本のキリスト教会の苦悩と、それぞれの教派が持つ固有のアイデンティティとの間の葛藤を示す一例と言えるでしょう。

参考文献として、小野静雄著『日本プロテスタント教会史（下）』や中村敏著『日本プロテスタント宣教史』などが、この時代のバプテスト派の動向について詳しい記述を含んでいます。また、関連する教育機関として、日本バプテスト神学校などがあります。

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