日本列島改造論

日本列島改造論

『日本列島改造論』は、田中角栄が1972年6月11日に発表した政策綱領であり、同名の著書としても知られています。この政策は、自由民主党の総裁選を控えた時期に、田中が地方分散を推進するために掲げたものであり、工業の再配置と全国的な交通・情報通信ネットワークの形成を提唱しました。田中はこの主旨をもって、総裁選での勝利を収め、内閣総理大臣に就任することになります。

書籍『日本列島改造論』は、日刊工業新聞社から1972年6月20日に刊行され、初版は91万部を売り上げるベストセラーとなりました。田中のこの政策は、主に1968年に発表した「都市政策大綱」を基にしており、その執筆には後に国土事務次官に就任する下河辺淳や自治官僚の武村正義が深く関与していました。

当時の社会的背景

1970年代初頭、太平洋ベルト地帯には産業が集中し、過疎化や過密化、公害といった社会問題が浮上していました。この状況を踏まえ、田中は『日本列島改造論』において、日本を高速交通網で結びつける計画を提案しました。新幹線や高速道路を利用し、地方の工業化を促進したり、在来線が空くことを利用して貨物列車の運行を増発することで、過疎問題と公害の同時解決を図ろうとしました。

さらには、国土の再配置を進めるために、豪雪地域を工業地帯として開発し、南部を農業地帯とする考え方を示しました。この提案はアメリカやイタリアの事例を引き合いに出しつつ展開されました。

田中内閣での施策

田中内閣が発足すると、副大臣や専門家を集めた日本列島改造問題懇談会が設置され、定期的に会合が開かれました。この懇談会の委員数は、当初の75名から90名に増員され、グリーンピア構想などの具体的施策の展開に繋がりました。

青函トンネル事業では、予算増額が行われ、1988年に開通するまでの約18年間の工事が進められました。これにより、列島改造論に基づく開発ブームが起こり、多くの地域で投機が行われた結果、地価が急上昇し、インフレーションを引き起こす一因となりました。

政府は物価安定策を打ち出し、関連する法律も制定しましたが、経済へのマイナス影響を抑えるには至りませんでした。議題に上がった新幹線の追加路線計画も進み、列島改造論に基づく地方開発の動きは続いていました。

オイルショックとその影響

しかし、第四次中東戦争を契機とするオイルショックが発生し、物価が急騰し、経済は混乱に陥りました。田中内閣は、その影響を受け、内閣改造を余儀なくされ、新たな大蔵大臣には福田赳夫が就任しました。福田は列島改造論を批判しつつも、経済安定化策に舵を切ることで、田中が進めた施策は後退しました。

首相辞任後の展開

1974年12月、田中は田中金脈問題によって政権を失います。その後の福田内閣では、整備されたインフラの進展が停滞し、国鉄は巨額の赤字を抱えることになります。関連する開発政策は徐々に後退し、地方交通の問題や中心都市への人口集中は深刻化しました。

田中はロッキード事件により政治的影響力が減少しましたが、その後も田中派の影響を通じて日本の政治シーンには強い存在感があり続けました。その間に、并行して進められた情報通信ネットワークの整備は実を結び、日本電信電話公社による通信自由化が進んだことで多様な通信サービスが普及しました。

近年になって、田中の理念や政策は再評価され、2023年には『日本列島改造論』が復刻されました。田中が追求した「工業再配置と交通ネットワークの形成」の成果は、理想と現実の乖離を孕んでいますが、当時の社会において重要な提言であったことは間違いありません。

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