田中金脈問題

田中金脈問題とは

田中金脈問題は、1974年に日本の政治を大きく揺るがしたスキャンダルであり、時の内閣総理大臣、田中角栄の退陣へと繋がりました。

事件の概要

事件の発端は、1974年10月9日に発売された『文藝春秋』11月号に掲載された二つの特集記事でした。立花隆による「田中角栄研究―その金脈と人脈」は、田中角栄のファミリー企業群が信濃川の河川敷の土地を不正に取得し、その後の建設省の工事によって莫大な利益を得た疑惑を指摘しました。児玉隆也の「淋しき越山会の女王」は、田中角栄の資金管理団体である越山会の金庫番、佐藤昭と田中角栄の関係、及び佐藤昭が田中派に及ぼした影響力を暴露しました。これらの記事は合わせて60ページにも及び、政界に大きな衝撃を与えました。

国内外の反応

当初、田中角栄首相はこれらの報道に対し、記者会見を拒否し、ノーコメントを貫きました。しかし、10月13日発売の『ニューズウィーク』や、その後の欧米メディアがこの問題を報道したことで、国内外の注目を集めることとなりました。特に10月22日に丸の内プレスクラブで行われた外国人記者会見では、300人もの内外記者が集まり、田中首相に対し金脈問題に関する質問を集中させました。田中首相は釈明に追われましたが、翌日の新聞各紙の一面を飾ると、国内でも政治問題として広く認識されるようになり、内閣支持率は低下の一途を辿りました。

田中角栄の退陣

事態を収拾するため、田中角栄首相は11月11日に内閣改造を行いましたが、野党が金脈問題の徹底的な追及を求め、佐藤昭をはじめとする田中人脈に関わる人々の国会招致を要求したため、政権維持は困難となりました。そして11月26日、田中首相は竹下登官房長官を通じて、「私個人の問題で、世間の誤解を招いたことは公人として不明、不徳のいたすところ」「私は国政の最高責任者として政治的、道義的責任を痛感しております」という言葉を述べ、辞任を表明しました。これにより、12月9日に内閣は総辞職することとなりました。

その後の捜査と裁判

国会では、田中ファミリー企業群の一つである「新星企業」が、宅地建物取引業の免許が切れているにも関わらず不動産取引を行っていた問題が取り上げられ、警視庁と東京地検特捜部が捜査に乗り出しました。1975年6月には、新星企業の幹部が宅地建物取引業法違反と商法の特別背任罪で起訴され、法人としての新星企業とその幹部も宅地建物取引業法違反で起訴されました。同年12月、新星企業の幹部には懲役1年6ヶ月・執行猶予2年及び罰金30万円、法人としての新星企業とその幹部には罰金30万円の有罪判決が下り、確定しました。ただし、この裁判において田中角栄との直接的な繋がりが示されたのは、初公判での検察の冒頭陳述で新星企業の株主として田中角栄の名前が一度挙げられたのみでした。

また、信濃川河川敷問題においては、土地を安価で手放した元地主2名が、田中ファミリー企業に対して土地の返還を求める民事訴訟を起こしましたが、1997年2月に最高裁で元地主側の敗訴が確定しました。

事件の影響

立花隆は、登記簿や政治資金収支報告書などの公開情報を徹底的に調査し、関係者への取材を重ねるという手法でこの問題を掘り下げました。この事件は、フリージャーナリストによる調査報道が、時の首相を退陣に追い込んだ事例として知られています。もっとも、田中角栄自身にとっては、立花隆による金権批判よりも、児玉隆也による「越山会の女王」批判の方が打撃が大きかったと言われています。

当時、大手メディアの政治部記者たちは、文藝春秋の報道内容について「そのくらいのことは皆知っている」と語っていましたが、「知っているなら何故書かなかったのか」という批判も上がりました。この事件は、政治部記者と政治家の癒着という問題点を浮き彫りにしました。

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