日本国皇帝

日本国皇帝とは

「日本国皇帝」とは、古代から昭和時代にかけて、日本の天皇に対して用いられた称号の一つです。主に外交の場で使用され、外国の君主に対する称号として用いられることが多かったとされています。

古代における「皇帝」号の使用

古代の日本では、律令制度下において、外国との文書では天皇を「皇帝」と称することが定められていました。この「華夷」の解釈については、外国全体を指すとする説や、日本と外国を区別する概念とする説など、様々な見解が存在します。

淳仁天皇の時代には、天皇に「皇帝」の尊号が贈られる事例がありました。例えば、孝謙天皇は譲位後に「宝字称徳孝謙皇帝」、聖武天皇は「勝宝感神聖武皇帝」の尊号を贈られています。さらに、淳仁天皇の父である舎人親王にも「崇道尽敬皇帝」の尊号が贈られています。これらの尊号は、当時の権力者であった藤原仲麻呂の唐風志向の影響によるものと考えられています。

近代における「皇帝」号の使用

明治時代に入り、新政府が外交権を掌握すると、外国の君主に対する称号として「皇帝」号の使用が求められるようになりました。当初、日本政府は「天皇」号の使用を主張しましたが、外国の外交団からの反発を受け、「皇帝」号の使用を余儀なくされました。

当時、中国（清）が「皇帝」号を使用していたため、日本政府は「皇帝」号の使用に抵抗を示しましたが、最終的には明治3年（1870年）に、天皇を「日本国大天皇」、外国の君主を「大皇帝」と表記することが定められました。しかし、明治4年に清と締結された「日[[清修好条規]]」では、両国の君主称号は表記されませんでした。これは、清側が「天皇」号を君主号と認めなかったためです。

その後、明治6年（1873年）頃から、外交文書において「皇帝」号の使用が一般化しました。これは、対中国外交において「天皇」号を用いると、再び称号に関する議論が起こることを懸念したためと考えられています。この時期以降、外国からの条約文などでも、「Mikado」や「Tenno」の使用は減少し、「Emperor」が使用されるようになりました。

その後の「皇帝」号

明治時代以降、天皇号と並行して皇帝号も使用されました。民間の憲法草案や元老院の意見書などでも、君主の称号として「皇帝」号が採用されることがありました。また、陸軍の制度などでも皇帝号が用いられています。

政府内でも意見が分かれていましたが、明治22年（1889年）に皇室典範が制定された際、伊藤博文の裁定により、君主号は「天皇」号に統一されることになりました。しかし、外交の場では、依然として「皇帝」号の使用が継続されました。これは、外務省が「大宝令」を根拠に、外交上での「皇帝」号の使用は古くからの伝統であると主張したためです。

大正10年（1921年）には、外国君主を「皇帝」と記載する太政官達は廃止されましたが、その後も条約などでは、外国の君主や天皇に対して「皇帝」の称が使用されました。国内では、ほとんどの場合「天皇」号が用いられましたが、「日露戦争宣戦詔勅」などの一部の詔書や法律では「皇帝」号が使用されました。

昭和時代に入ると、国体明徴運動が活発化し、外交上でも「天皇」号を用いるべきであるという議論が起こりました。外務省は条約の日本語訳にのみ「天皇」号を使用し、特に発表しないことで解決しようとしましたが、宮内省内の機関紙の記事が新聞社に漏洩し、1936年（昭和11年）に発表せざるを得なくなりました。ただし、外国語においては従来通り「Emperor」が用いられました。1935年（昭和10年）公布の国際衛生条約では「皇帝」と表記されていたものが、1936年（昭和11年）公布の猥褻刊行物ノ流布及取引ノ禁止ノ為ノ国際条約では「天皇」の表記になるなど、揺れが見られます。

公文書における用例

以下に、公文書における「皇帝」号の使用例を示します。

1874年（明治7年）：「台湾事件ニ付全権弁理大臣大久保利通ヲ清国ヘ遣ハスノ勅語」：「大日本国皇帝」
1894年（明治27年）：「清国ニ対スル宣戦ノ詔勅」：「大日本帝国皇帝」
1904年（明治37年）：「露国ニ対スル宣戦ノ詔勅」：「大日本帝国皇帝」
1904年（明治37年）：「日韓議定書」：「大日本帝国皇帝」
1910年（明治43年）：「韓国ニ於ケル発明、意匠、商標及著作権ノ保護ニ関スル日米条約」：「日本国皇帝」
1910年（明治43年）：「韓国併合ニ関スル条約」：「日本国皇帝」
1914年（大正3年）：「独逸国ニ対スル宣戦ノ詔書」：「大日本国皇帝」
1915年（大正4年）：「山東省ニ関スル条約」：「日本国皇帝」
1915年（大正4年）：「南満洲及東部内蒙古ニ関スル条約」：「日本国皇帝」
1929年（昭和4年）：「戦争抛棄ニ関スル条約」：「日本国皇帝」

これらの例からもわかるように、外交文書や条約において「皇帝」号が用いられていたことがわかります。

まとめ

「日本国皇帝」号は、古代から昭和時代にかけて、日本の天皇に対して用いられた称号であり、特に外交の場で重要な役割を果たしました。その使用は、時代や状況によって変遷を遂げ、天皇号との使い分けが議論を呼ぶこともありました。しかし、公文書や条約においては、一定の時期まで「皇帝」号が使用されていたことは事実です。この称号の変遷は、日本の歴史と外交における複雑な側面を映し出していると言えるでしょう。

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