日本沈没 (漫画)

日本沈没：2つの漫画版の比較考察

小松左京のSF小説『日本沈没』は、幾度となく映像化され、その度に人々の心に深い感銘を与えてきました。その『日本沈没』を原作とした漫画作品は、大きく分けて2種類存在します。1970年代にさいとう・プロが『週刊少年チャンピオン』で連載した作品と、2000年代に一色登希彦が『ビッグコミックスピリッツ』で連載した作品です。本稿では、それぞれの作品の特徴を比較検討しながら、その魅力を深く掘り下げていきます。

さいとう・プロ版『日本沈没』

1973年から1974年にかけて『週刊少年チャンピオン』で連載されたさいとう・プロ版は、原作小説の世界観を漫画という表現形式で忠実に再現することに成功しています。連載終了後、秋田書店より単行本が発行されましたが、現在は絶版。その後、講談社漫画文庫より復刊され、2006年には映画公開に合わせて講談社とリイド社から改めて単行本が発売されました。

この作品の特徴は、原作小説のストーリーを比較的忠実に踏襲している点です。しかし、原作には登場しない登場人物が加えられたり、ラストシーンが原作と異なるなど、漫画ならではの独自性も盛り込まれています。1973年公開の映画版ともストーリー展開が類似している部分も見られます。

物語は、伊豆半島天城山の噴火を皮切りに、小笠原諸島沖での無人島沈没という不可解な現象が発生するところから始まります。これらの異変を調査するべく、地球物理学者の田所博士を中心とした「D計画」が極秘裏に発足。田所博士の鋭い洞察力と、彼を支える仲間たちの活躍を通して、日本列島を襲う未曾有の危機と、その背後に潜む恐るべき事実が明らかになっていきます。

主な登場人物は、天才的な地球物理学者である田所雄介、海底開発のパイロット小野寺俊夫、地震学助教授の幸長、情報科学者の中田、総理府秘書官の邦枝、内閣調査室職員の山崎、そして日本政界の影の重鎮である渡老人などです。それぞれのキャラクターが持つ個性と、彼らが置かれた状況が複雑に絡み合い、物語に深みを与えています。

一色登希彦版『日本沈没』

2006年から2008年にかけて『ビッグコミックスピリッツ』で連載された一色登希彦版は、2006年公開の映画版を意識しつつも、原作小説の世界観を現代風にアレンジした意欲作です。単行本は小学館ビッグコミックスより全15巻で刊行されました。

この作品では、東京スカイツリーが完成した姿が描かれていることから、時代設定は2011年以降であることが推測されます。基本的なストーリーラインは原作に沿っていますが、現代社会における科学技術や社会問題を反映し、原作小説にはない要素が多数追加されています。特に、原作では序盤しか登場しない郷六郎が、本作では重要なキーパーソンとして物語の中核を担っている点が大きな違いです。また、最終回ではテレビドラマ版の主題歌「明日の愛」の歌詞が引用されるなど、原作へのオマージュと独自の解釈が絶妙に融合しています。

物語は、新宿の雑居ビルが地中に没する不可解な事件から始まります。この事件をきっかけに、地球物理学者の田所雄介博士は、小野寺俊夫、結城慎司、阿部玲子らと共に日本列島の異変の謎を解き明かしていく旅に出ます。彼らが目撃する光景は、日本列島の未来、ひいては世界の未来を暗示するものでした。

登場人物も原作とは大きく異なり、小野寺俊夫はアメリカで腕を磨いたベテラン潜水艇パイロット、阿部玲子は東京消防庁ハイパーレスキュー隊員、そして郷六郎は小野寺の幼馴染で、民間レベルでの「D計画」を主導する重要な人物となっています。さらに、現代日本の政治構造や国際情勢などもリアルに描写され、物語全体にリアリティが加えられています。政府関係者として、内閣総理大臣の緒形茂弘、内閣官房長官の廣田五月、総理秘書官の邦枝なども登場し、政治的な駆け引きや葛藤も描かれています。

まとめ

さいとう・プロ版と一色登希彦版の『日本沈没』は、どちらも原作小説の魅力を継承しつつ、それぞれの表現方法や解釈によって独自の個性を持つ作品に仕上がっています。時代背景や社会情勢を反映した違い、登場人物の個性、ストーリー展開など、様々な視点から比較検討することで、より深く『日本沈没』の世界観を理解することができるでしょう。どちらの作品も、日本のSF漫画史において重要な位置を占める作品であることは間違いありません。

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