日本熱学工業

日本熱学工業

日本熱学工業株式会社（にっぽんねつがくこうぎょう、英語表記：Nippon Netsugakukogyo Co.Ltd）は、かつて日本に存在した空調機器の専門メーカーです。1957年2月に設立され、以来、空調設備の設計、製造、施工を一貫して手掛けていました。なお、静岡県の日本熱学や福岡県の新日本熱学とは、資本関係や人的交流は一切ありませんでした。

成長と主力製品

昭和40年代後半、日本の空調設備需要が急速に拡大するブームに乗って、同社は飛躍的な成長を遂げました。その事業の中心を担ったのが、家庭用コインクーラー「エアロマスター」です。これは、当時まだ一般家庭にとって導入コストが高かったクーラーを、リース方式で提供するというユニークな製品でした。利用者は、使いたい時間の分だけ100円硬貨を投入することでクーラーを稼働させることができ、その手軽さが多くの家庭に受け入れられ、普及が進みました。

広告戦略

製品の普及には、積極的な広告戦略も貢献しました。女優の新珠三千代や大相撲の横綱輪島大士といった著名人が共演するコインクーラーのCMが放映されたほか、同社の関連会社である日本空気販売がスポンサーを務めた特撮テレビ番組『スーパーロボット レッドバロン』では、番組内の特撮シーンなどを活用したユニークなCMも知られています。また、1973年から1974年頃には、福岡県の平和台野球場に「エアロマスターの節電型メータークーラー・愛隣」という外野フェンス看板を掲出していました。

経営悪化と倒産

順調に見えた経営でしたが、他社による冷暖房機器の大量生産が進み、製品価格が大幅に下落したことで、リース形式のエアロマスターは価格競争力を失っていきました。加えて、本業である空調設備工事の新規受注が鈍化し、業績は急速に悪化。追い打ちをかけるように石油危機も発生し、経営は破綻寸前となりました。1974年5月20日、同社は会社更生法の適用を申請し、事実上の倒産に至りました。

倒産発表から間もない1974年5月24日には、労働組合と経営陣が団体交渉を行った後、当時の副社長（社長の実弟）が行方不明となる事件が発生しました。同年6月1日には、青函連絡船「大雪丸」の船内から、副社長のものとされる鞄と遺書が発見されています。同年11月には裁判所によって更生法申請が棄却され、再建の道は閉ざされました。そして12月10日には、代表取締役社長であった牛田正郎が特別背任罪の容疑で逮捕されました。最終的に、同社は翌1975年3月に破産手続きを完了し、完全に消滅しました。

事業所と関連企業

日本国内には、神奈川県秦野市（現在の日本マルチベント）、静岡県駿東郡小山町、滋賀県彦根市高宮町（現在のSCREENホールディングス彦根事業所に隣接）に工場を有していました。海外ではシンガポールにも工場を設置していました。
関連会社としては、子会社でエアロマスター製品の販売を手掛けた株式会社エアロマスターがありましたが、これも親会社と同日の1974年5月20日に倒産しました。また、サントリーやワコールを含む約30社が共同出資して設立された関連会社、株式会社日本空気販売も存在し、牛田正郎社長が代表を務めていましたが、こちらも1974年6月14日に倒産しています。なお、社長の牛田正郎は、輪島大士の後援会会長を務めていたことでも知られます。また、牛田社長は自身の視点から倒産事件について記した著書『悪党の手口 - 小説・日本熱学倒産事件』を出版しています。

スポーツ活動

日本熱学工業は、スポーツ活動にも力を入れており、特に野球部は強豪として知られていました。1963年に創部された野球部は、社会人野球の主要大会である都市対抗野球大会にも出場する実力を備えていました。そして1973年には、日本産業対抗野球大会に初出場し、見事初優勝という快挙を達成しました。チームからは複数のプロ野球選手も輩出するなど、社会人野球界において注目される存在でしたが、日本産業対抗野球大会での優勝からわずか半年後、親会社の倒産に伴い、野球部も短期間で解散するという劇的な幕引きとなりました。

昭和の空調ブームに乗って急成長し、ユニークな製品や広告、そして強豪野球部といった多方面で話題を提供しながらも、時代の変化と経営の混乱により、わずか20年足らずの歴史に幕を閉じた企業でした。

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