日本百名山

深田久弥『日本百名山』：日本の名峰を巡る珠玉の随筆

深田久弥氏による『日本百名山』は、日本の登山史に燦然と輝く金字塔的作品です。単なる登山ガイドや紀行文ではなく、著者の豊富な登山経験と深い洞察に基づき、選定された100の名峰それぞれを、その歴史、文化、自然、そして著者の個人的な体験を交えて綴った山岳随筆集です。1959年から4年に渡り雑誌『山と高原』に連載されたものが書籍化され、1964年の初版刊行以来、幾度となく重版を重ね、現代においても多くの登山愛好家から愛読されています。

選定基準：山格・歴史・個性

深田氏は、日本の数多くの山々を踏破した経験から、「山格」、「歴史」、「個性」という三つの基準を設け、百名山を選定しました。

山格：山容の雄大さ、威厳、存在感といった、人々を圧倒するような山の風格を重視しました。深田氏はこれを「山の人格」と表現し、誰が見ても素晴らしいと感嘆する山を第一の基準としました。
歴史：古来より人々と深く関わり、信仰の対象となってきたり、歴史的な出来事の舞台となってきたりした山を高く評価しました。山頂に祠が祀られている山などもその対象です。
* 個性：芸術作品のように、他にはない独特の魅力を持つ山を重視しました。山容、自然現象、地域固有の伝統など、その山の個性を明確に打ち出しているかどうかが選定の重要な要素でした。

そして、何よりも重要な基準として、「深田氏自身が登頂した山であること」がありました。少年時代から約50年間にわたり、多くの山々に登頂した経験が、この選定の土台となっています。

選定の過程と背景

『日本百名山』の構想は、第二次世界大戦前から深田氏の心にありました。多くの山を踏破した経験から、日本の代表的な山々を選び抜きたいという思いを抱き、戦前には既にその選定作業に着手していました。さらに、谷文晁の「日本名山図会」も大きな影響を与えたと言われています。

初期構想は、1940年から雑誌『山小屋』で連載されましたが、現在の『日本百名山』とは構成や選定の山々が異なります。その後、雑誌『山と高原』での連載を経て、現在の形にまとまりました。この連載も大きな反響を呼び、読者賞を受賞するなど、高い評価を得ています。

『日本百名山』とその影響

『日本百名山』は、単なる山岳ガイドブックではなく、日本の山の自然、歴史、文化を深く理解するための貴重な資料となっています。一座あたりの記述量は多くありませんが、その分、深田氏の鋭い視点と洗練された文章によって、各山の魅力が凝縮されています。

この本の出版は、日本における登山ブームの大きな要因の一つとなりました。多くの登山愛好家が、本書をガイドとして、日本各地の名峰を目指しました。しかし一方で、登山ブームによる混雑や登山道の荒廃といった問題も発生しました。

他の「百名山」選定

『日本百名山』以外にも、さまざまな「百名山」選定がなされてきました。「日本三百名山」、「日本二百名山」、「花の百名山」などは、深田氏選定の百名山と一部重複しながら、独自の基準で選定された山々です。各地の地方自治体や山岳会なども独自の「百名山」を選定しており、多様な視点から日本の名山が紹介されています。

まとめ

深田久弥『日本百名山』は、日本の山岳文化にとって非常に重要な作品です。その選定基準、選定の背景、そしてその後の影響までを理解することで、日本の山々への理解を深めることができます。今もなお、多くの人々に読まれ、愛されている理由を、本書を通して探求してみてはいかがでしょうか。

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