深田久弥

深田久弥（ふかだ きゅうや）は、1903年（明治36年）に石川県で生まれ、1971年（昭和46年）に登山中に亡くなった、日本の著名な小説家、随筆家、そして登山家です。彼は、山を愛し、その魅力を文章で表現することに情熱を注ぎました。

生い立ちと学生時代

深田は、石川県加賀市で生まれました。幼少期から白山を眺めて育ち、12歳で富士写ヶ岳に登ったことがきっかけで登山に興味を持ちました。小学校の裏には錦城山があり、校長から「錦城山の如く美しい心を持て」と教えられました。

福井県立福井中学校を経て、第一高等学校に進学すると、文芸部で堀辰雄や高見順と出会い、旅行部（山岳部）では浜田和雄から大きな影響を受け、山やスキーに親しみました。また、柔道やヨットの選手としても活躍しました。一高時代はドイツ語を学び、ゲーテの詩に影響を受けました。文学にも傾倒し、フランス文学にも触れました。俳句にも興味を持ち、同人誌にも参加しました。

山に熱中しすぎて卒業試験を放棄して留年したという逸話も残っています。

文筆活動の開始

1926年に東京帝国大学文学部哲学科に進学。1927年には改造社に入社し、編集者としてのキャリアをスタートさせました。1928年に小説「実録武人鑑」で文壇デビュー。改造社の懸賞創作の選考過程で北畠八穂と恋に落ち、同棲を始めますが、入籍には至りませんでした。

1929年には堀辰雄、横光利一らの同人誌『文學』に参加し、1930年には文筆業に専念するために改造社を辞職、大学も中退しました。その後、『文學』の流れを汲む『作品』の同人になり、大岡昇平と知り合いました。

1932年、『あすならう』を発表し文壇的評価を確立しましたが、実はこの作品を含む初期の作品は北畠八穂との共同作業（代作）であったことが後に判明しました。

鎌倉に移住してからは、山やスキーをテーマにした文章を多く書くようになり、鎌倉ペンクラブを結成するなど、文壇での活動を続けました。

戦争と復員

1944年、深田は陸軍少尉として中国大陸へ出征しました。そこで、小林秀雄と再会したり、八木義徳と交流したり、句会を開いたりと、戦時下でも文化的な活動を続けていました。終戦後、俘虜生活を送り、1946年に復員しました。

復員後、深田は八穂と離婚し、以前から関係のあった木庭志げ子と再婚しました。この離婚劇によって、過去の代作問題が露呈し、作家としての信用を失い、10年以上にわたる雌伏生活を余儀なくされました。

再起と『日本百名山』

1949年、錦城山岳会を結成し、登山を再開します。1952年頃からヒマラヤ研究に興味を持ち始め、『岳人』誌上で「机上ヒマラヤ小話」を連載しました。1955年に上京し、世田谷に居を構えました。

1958年には、アーチストアルパインクラブを組織し、ヒマラヤ探検に出発。1964年に『日本百名山』を出版すると、翌年読売文学賞を受賞し、人気作家として返り咲きました。

自宅に「九山山房」という書斎を設け、山に関する資料を収集し、ヒマラヤ登頂計画にも貢献しました。

1966年には、自ら隊長となり中央アジアを旅行し、シルクロードの概念を日本に広めました。

1968年には日本山岳会の副会長に就任、1969年には山渓賞を受賞しました。

突然の死と遺産

1971年、深田は登山中に茅ヶ岳で脳卒中のため急逝しました。享年68歳。

彼の死後、故郷には文学碑が建立され、命日の3月21日は「九山忌」と称され、深田を偲ぶ行事が行われています。また、深田が選んだ100の山に、更に100の山を加えた『日本二百名山』も出版され、多くの登山家に親しまれています。

深田久弥は、その文学作品を通じて、山を愛する心、自然を敬う心を多くの人々に伝えました。

主な著書

『日本百名山』
『わが山々』
『雲の上の道』
『ヒマラヤ登攀史』
『シルクロード』
『中央アジア探検史』

主な登山記録

白山
槍ヶ岳
浅間山
金峰山
白馬岳
苗場山
朝日岳
薬師岳
赤城山
至仏山
鳳凰山
谷川岳
鹿島槍ヶ岳
巻機山
会津駒ヶ岳
霧島山
宮之浦岳
雨飾山
八ヶ岳
男体山
石鎚山
岩木山
五竜岳
光岳
蓼科山
恵那山
* 富士見台高原

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