日本航空MD11機乱高下事故

日本航空MD11機乱高下事故について

概要

日本航空MD11機乱高下事故（にほんこうくうMD11きらんこうげじこ）は、1997年6月8日に発生した航空事故で、別名として日本航空706便事故とも呼ばれています。この事故は、香港発名古屋行きの日本航空706便が三重県志摩半島上空で自動操縦中に予定外の急激な乱高下に見舞われ、搭乗していた乗員や乗客が負傷するという事態を引き起こしました。

事故当時、このMD-11型機（機体記号JA8580、愛称「エトピリカ」）には11名の乗員と169名の乗客が搭乗していました。事故は午後7時34分頃、降下中に起こり、速度が設定値を超えて増加したため、操縦士は自動操縦装置の設定を調整しようとしましたが、効果が得られないままスピードブレーキを展開しました。その直後、機体は突然の急激な機首上げを起こし、上下の大きな揺れが発生しました。

この乱高下によって、シートベルトを着用していなかった乗客や乗員は天井に叩きつけられる結果になり、重傷者として乗務員1名、乗客3名が負傷し、最終的には乗員4名と乗客4名が軽傷を負いました。この事故は名古屋空港に予定より15分遅れの午後8時15分に着陸しましたが、重傷を負った女性客室乗務員はその後、1年8ヶ月後に死亡しました。

事故の原因

事故の原因に関しては、1999年12月に運輸省航空事故調査委員会から発表された報告書によれば、機長の操縦操作が乱高下を誘発したとされています。この報告書では、降下中に行われた操縦操作が自動操縦装置の許容量を超えていたため、操縦装置が解除され、その結果、機体は制御を失い急激なピッチアップを起こしたとしています。さらに、MD-11の飛行特性に対する機長の理解不十分が要因とされ時間的な負荷も考慮に入れられています。

また、事故時に負傷した乗客のほとんどがシートベルトを着用していなかったため、これも負傷者数が増えた原因だとされています。MD-11の自動操縦装置は乗客の快適性を考慮した設計がなされていましたが、そのため操縦の安定性に欠ける一面があったとも指摘されており、過去に類似の事故があったことも考えると、改善措置が講じられていなかった点も深刻です。

刑事裁判

2002年、名古屋地方検察庁は機長を業務上過失致死傷罪で起訴しましたが、裁判では機長の操縦が直接的な原因ではなかったため、2004年の一審で無罪判決が下されました。判決は、「自動操縦の解除が事故につながった」という認定をしましたが、機長に回避義務はなかったとも述べました。

以後、名古屋高裁でも一審判決が支持され、「自動操縦の解除という意図的な操作はなかった」との見解が示されました。最終的に、検察側が最高裁への上告を断念したため、機長の刑事責任は確定しませんでした。

その後の影響

MD-11シリーズは機体の問題が多かったことに加えて、本事故のイメージも影響し、全機が2004年に退役しました。以降、日本航空は新たな運航路線の変更を迫られ、名古屋-香港路線も廃止されることになりました。事故の結果、乗客数の減少が見られ、その後同路線の搭乗率は著しく低下しました。

2023年現在、日本国籍の定期便での死亡事故はこの事故を最後に発生していませんが、航空業界においては深い教訓をもたらした出来事であり、航空安全に対する取り組みの重要性を再認識させるものでした。

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