日本運動協会野球歌

「日本運動協会野球歌」（にっぽんうんどうきょうかいやきゅうか）は、大正時代に存在した日本最初のプロ野球チーム、日本運動協会（NAA）によって定められた公式の球団歌です。これは、日本におけるプロ野球の歴史において、最初に誕生した球団歌であるという点で、大変重要な位置を占めています。

日本運動協会は、1920年（大正9年）に設立されました。当時の本拠地は、東京市芝区（現在の東京都港区の一部）にあった芝浦球場でした。この球団歌は、チームが結成されてから二年が経過した1922年（大正11年）に制定され、「協会歌」という通称で選手や関係者に歌われたと伝えられています。

この歌の作詞を手がけた人物については、後に阪急軍の結成にも関与した元NAA選手の片岡勝氏が、詩人である児玉花外（こだま かがい）であると証言しています。しかし、残念ながら作曲者が誰であったかは現在も分かっておらず、また、制定当時の楽譜も既に失われているため、この歌がどのような旋律を持っていたのかを知ることはできません。

この協会歌が実際に歌われた記録として、最も古いものとされるのが、1923年（大正12年）6月18日の出来事です。日本運動協会の選手たちが満洲・朝鮮への遠征に出発する際、東京駅のホームでこの歌を皆で斉唱し、送り出されたと記録に残されています。ところが、選手たちの帰国後まもない同年9月、未曽有の関東大震災が発生します。本拠地である芝浦球場は、震災の救援物資を置く場所として戒厳司令部に収容されることとなり、日本運動協会は活動の休止を余儀なくされました。

その後、阪急電鉄を率いる小林一三氏から、日本運動協会の活動を引き継ぎたいとの申し出があり、チームは兵庫県川辺郡小浜村（現在の宝塚市）にある宝塚球場へと拠点を移しました。そして、「宝塚運動協会」として再出発を果たします。この宝塚時代においても、球団歌としては日本運動協会時代に制定された歌が引き続き使用されたとされています。

しかし、宝塚運動協会は、1929年（昭和4年）に起こった昭和金融恐慌の煽りを受け、その活動に終止符を打ち解散しました。一方、阪急電鉄は、プロ野球界ですでに活動していた競合事業者である阪神電気鉄道の大阪タイガース（現在の阪神タイガース）に対抗するため、1936年（昭和11年）に改めて「阪急軍」を結成し、同年設立された日本職業野球連盟に参加します。阪急軍には、前述の元NAA選手である片岡氏がマネージャー兼スカウトとして迎え入れられましたが、組織としては宝塚運動協会や日本運動協会からの直接的な継承ではありませんでした。そのため、阪急軍の公式応援歌は、新たに「阪急職業野球団応援歌」（作詞：岩沢光城、作曲：古谷幸一）として、結成初年度の1936年4月に制定されています。

なお、本歌の歌詞は、著作権の保護期間が満了しており、現在はパブリックドメインとして公開されています。

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