日活ロマンポルノ事件

日活ロマンポルノ事件とは

1972年、日活が製作した成人映画、いわゆる日活ロマンポルノ4作品が、刑法の猥褻図画公然陳列罪に問われた事件です。この事件は、単に映画作品の違法性だけでなく、映画倫理委員会（映倫）の審査の妥当性、そして「芸術か猥褻か」という根源的な問いを社会に投げかけました。この裁判は「日活ロマンポルノ裁判」とも呼ばれ、日本映画界全体を揺るがす大きな事件へと発展しました。

事件の経緯

事件の発端は、日活が1971年から1972年にかけて公開した『愛のぬくもり』、『恋の狩人・ラブハンター』、『OL日記・牝猫の匂い』、『女高生芸者』の4作品です。警視庁はこれらの作品を「猥褻物」と判断し、日活の映画本部長や製作責任者、監督、プロデューサーら6人が逮捕されました。さらに、これらの映画を審査した映倫の審査員3人も、幇助罪で逮捕されるという事態となりました。

この逮捕劇は、映画業界に大きな衝撃を与えました。特に、自主規制機関である映倫の審査員が刑事責任を問われたことは前例がなく、問題は日活だけでなく、映画業界全体に波及しました。日本映画製作者連盟は、日活を支援するため「映倫裁判対策委員会」を設立、東映社長の岡田茂を委員長に迎え、裁判闘争に臨みました。岡田自身も成人映画を製作していたため、日活にとって非常に心強い存在となりました。

裁判は長期化しましたが、日活ロマンポルノの人気は衰えず、興行的には成功を収め続けました。1975年には、日活ロマンポルノ製作4周年を記念したパーティーが開催され、多くの映画関係者が集まりました。このパーティーでは、ロマンポルノ女優たちが水着や浴衣姿で参加し、日活の勢いをアピールしました。

裁判の結果

1978年、東京地方裁判所は一審で無罪判決を下しました。判決では、「性描写をどこまで許容するかは、時代とともに変化する社会的通念による」とした上で、「映倫の審査は、すでに一定の社会的評価を得ているため尊重するべき」としました。しかし、東京地方検察庁はこれを不服として控訴しました。

日活は、裁判中にもかかわらず、一般映画のヒットや、撮影所の買い戻しに成功し、勢いを取り戻しました。撮影所の返還を記念したパーティーも開催され、業界関係者から祝福を受けました。

1980年、二審の東京高等裁判所も一審の判決を支持し、検察側の控訴を棄却、無罪判決が確定しました。この結果を受け、日活を応援した人々は、盛大に祝賀会を開催しました。

事件の影響

日活ロマンポルノ事件は、日本の映画史において重要な転換点となりました。この裁判を通じて、映画表現の自由と社会的倫理観のバランスが、改めて問われることとなりました。また、映倫の審査のあり方や、検閲の問題など、様々な議論を巻き起こしました。この事件は、その後の映画製作や表現活動に、大きな影響を与えたと言えるでしょう。

事件を題材にした作品

この事件は、漫画作品『R★P ロマンポルノ』の題材にもなっています。この作品では、関係者や日活への取材をもとに、事件の真相が描かれています。

参考文献

「映倫50年の歩み」編纂委員会編『映倫50年の歩み』映画倫理管理委員会、2006年。
伊藤栄樹『検事総長の回想』朝日新聞出版（朝日文庫）、ISBN 4-02-260693-2

関連項目

日活
日活ロマンポルノ
* わいせつ物頒布等の罪

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