日米民主委員会

日米民主委員会（JACD）: 戦時下の勇気と忘れられた歴史

第二次世界大戦下のアメリカ合衆国において、日米民主委員会（JACD: Japanese American Committee for Democracy）は、ニューヨークを拠点に活動した注目すべき公民権団体でした。反ファシズムを掲げ、日系アメリカ人の権利擁護、日米友好促進、そして民主主義の推進に尽力した彼らの活動は、歴史の影に隠されてきた側面も持ち合わせています。本稿では、JACDの設立から解散、そしてその歴史的意義について詳細に探ります。

設立と初期活動

JACDの前身は、1940年に設立された「東部日本人共護委員会」です。1世のメソジスト教会牧師である赤松三郎氏を代表に、ニューヨークで活動をスタートさせました。太平洋戦争開戦後の1941年12月11日、委員会はJACDと改称。2世のトーマス・コムロ氏を委員長に迎え、アメリカ市民としての立場を明確にしました。

設立当初から、JACDは日本の軍国主義を強く批判すると同時に、アメリカへの忠誠を誓う姿勢を明確に打ち出しました。これは、日系アメリカ人社会内部にも反軍国主義、民主主義擁護の勢力があることをアメリカ国民に示すための重要な戦略でした。

活動の中心は、アメリカ国民への情報発信でした。戦時国債の購入を呼びかける集会や美術展覧会、献血運動などを展開し、月刊ニューズレターを発行して積極的に情報発信を行いました。多くの会員は戦時情報局の日本班で翻訳や執筆に従事し、日米間の情報橋渡しにも貢献しました。

著名人の参加と広がり

JACDの活動には、多くの著名人が関わりました。1942年4月15日の第1回大会には、ACLU理事のロジャー・ボールドウィン氏、アダム・クレイトン・パウエル・ジュニア氏、作家である林語堂氏やパール・S・バック氏らが来賓として出席。さらに、アルベルト・アインシュタイン博士が顧問に就任するなど、その活動は多くの支持を集めました。

当初、会員は1世と2世の両方が含まれていましたが、1940年代半ばには2世を中心とした大衆組織へと変貌を遂げ、全国的な活動へと発展していきました。しかし、この過程で、1世の役員全員が1944年末までに辞任を余儀なくされています。

社会問題への取り組み

JACDの活動は、日系人の権利擁護にとどまりませんでした。人種差別や社会正義に関する問題にも積極的に関与しました。1944年秋には、フランクリン・ルーズベルト大統領の再選を支持するアメリカ共産主義者協会主催の全国黒人会議に参加。華僑衣館聯合会と連携し、中国人排斥法の撤廃やアジア系移民の帰化を訴えるなど、多様な社会問題に取り組みました。

ニューズレターの内容も、JACDの活動報告にとどまらず、反人頭税に関する情報や新書の書評、陸軍での2世兵士の活躍、戦後日本の民主主義構想など、幅広いトピックを扱いました。

解散と忘れられた歴史

終戦後、JACDは活動を徐々に縮小し、1950年末に解散しました。メーデーのパレードへの参加や、人頭税反対運動、1948年の大統領選におけるヘンリー・A・ウォレス候補への支援などが、解散前の主な活動でした。

その後、JACDの存在は日系アメリカ人の歴史から長らく忘れ去られてきました。その理由として、活動期間が比較的短かったこと、本部が西海岸ではなくニューヨークにあったこと、共産党員が中心的な役割を果たしていたこと、そして政府による日系人の抑留を事実上容認していたことなどが挙げられます。

歴史的意義

JACDの活動は、戦時下の困難な状況下において、日系アメリカ人が民主主義と人権のために奮闘した歴史の証です。彼らの活動は、日系アメリカ人社会の内実、そして当時の社会状況を理解する上で貴重な資料となっています。歴史の表舞台から姿を消したJACDですが、その活動は現代においても、社会正義と人権擁護の重要性を訴えかけています。彼らの勇気と献身は、今後も忘れられることなく、未来への教訓として受け継がれていくべきでしょう。

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