旧長崎英国領事館

旧長崎英国領事館：歴史と建築美が織りなす、貴重な近代遺産

長崎県長崎市に位置する旧長崎英国領事館は、1908年（明治41年）に竣工した歴史的建造物であり、国の重要文化財に指定されています。その建築様式や歴史的背景、そして現在行われている保存修理工事について、詳しく見ていきましょう。

始まりはデント商会、そして英国領事館へ

この地の歴史は、1862年（文久2年）にデント商会が建設した商館に遡ります。同商会が倒産した後の1867年（慶応3年）、イギリスがその建物を領事館として使用しました。その後、1886年（明治19年）には、より利便性の高い大浦六番に移転、新築を検討した結果、1901年（明治34年）に着工することとなりました。

クィーン・アン様式と、日本人建築家との協働

設計はイギリス工務局上海事務所技師長ウィリアム・コーワンが担当。当時としては斬新なクィーン・アン様式を採用し、日本人建築家との議論を通して、周囲にベランダを巡らし、赤煉瓦に砂岩の帯をアクセントとした、洗練されたデザインが完成しました。辰野金吾が日本銀行京都支店などでこの様式を用いるよりも以前のことです。

困難な基礎工事と、竣工

1907年（明治40年）に着工したものの、軟弱な地盤が工事を難航させました。1688本の杭を打ち込むなど、基礎工事には多大な時間と費用を要したことが、上海工務局から本国への報告書にも記されています。幾多の困難を乗り越え、1908年に本館が竣工。全体工事は翌1909年に完了しました。

戦禍を乗り越え、奇跡的に残された建物

第二次世界大戦中の1941年（昭和16年）、領事館は閉鎖。戦後は英国政府が建物を売却することとなりました。長崎市は歴史的遺産としての保存を条件に購入を申し入れましたが、価格交渉が難航。競売にかけられることになり、長崎市が落札しました。英国財務省は当初、最低落札値を下回ったため再入札を予定していましたが、最終的には日本との友好関係を考慮し、長崎市への売却を決定しました。

児童科学館から美術館へ、そして保存修理へ

1955年（昭和30年）、長崎市の所有となり、児童科学館や教育研究所として利用されました。1990年（平成2年）には国の重要文化財に指定。1993年（平成5年）からは長崎市野口彌太郎記念美術館として活用されていましたが、2004年（平成16年）の調査で建物の老朽化が判明し、2007年（平成19年）に美術館は移転、建物は閉鎖されました。

2008年（平成20年）の文化庁の調査では、保存修理を優先すべき物件として位置づけられ、現在、大規模な保存修理工事が行われています。地盤改良や免震レトロフィット構造の採用など、最新の技術を駆使し、建物の耐震性を高める計画です。建物の外観は、イギリス工務局による新築当時の姿に復元される予定です。令和7年度（2027年度）の再開館を目指し、歴史的建造物の保存に尽力しています。

施設概要

敷地内には、本館の他に附属屋や職員住宅など複数の建物があり、これらは重要文化財に指定されています。本館は煉瓦造り2階建てで、ベランダやアーケードが特徴的なクィーン・アン様式を体現しています。附属屋は平屋建てで、かつては厨房や使用人の控室として使用されていました。職員住宅は木造と煉瓦造りの2階建てで、創建当時の様子をよくとどめています。

建築史における価値

旧長崎英国領事館は、附属建物や塀も含め、創建当時の状態を良好に保存しています。さらに、建築時の設計図や仕様書も残されており、日本近代建築史や外交史研究において、非常に貴重な資料となっています。

アクセスと周辺情報

長崎電気軌道の大浦海岸通停留場から徒歩5分という好立地です。周辺には旧長崎税関下り松派出所など、歴史的建造物が点在しています。

まとめ

旧長崎英国領事館は、単なる建造物ではなく、日本とイギリスの外交関係、そして近代建築技術の歴史を物語る、かけがえのない遺産です。保存修理工事を通して、未来へと受け継がれることを期待しましょう。

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