早蕨 (駆逐艦)

駆逐艦「早蕨」（さわらび）

早蕨（さわらび）は、大日本帝国海軍が運用した駆逐艦の一隻であり、若竹型駆逐艦の4番艦として知られています。この艦は、第一次世界大戦後のワシントン海軍軍縮条約の影響下で建造された比較的小型の駆逐艦クラスに属します。

浦賀船渠で建造された早蕨は、1923年（大正12年）9月1日に進水しました。進水時の名称は「第八駆逐艦」とされていましたが、翌1924年（大正13年）4月1日には「第八号駆逐艦」へと改称されました。同年7月24日に竣工し、正式に帝国海軍の艦籍に入ります。その後、昭和に入ってから海軍艦艇の名称整理が行われ、1928年（昭和3年）8月1日にカタカナ表記から漢字表記への変更に伴い、「早蕨」という名称が与えられました。これは艦名が一般に公開される際に漢字が用いられるようになったためです。

就役後は、主に沿岸警備や近海での訓練任務などに従事していたと考えられます。若竹型駆逐艦は、先行する峯風型や神風型に比べて排水量が小さく、武装も軽装でしたが、当時の日本の沿岸防衛体制において重要な役割を担っていました。

悲劇的な最期：台湾沖での沈没

早蕨の短い艦歴は、悲劇的な事故によって幕を閉じます。1932年（昭和7年）12月3日、早蕨は同型艦である早苗、呉竹、若竹と共に、呉港から台湾の馬公へと向かう航海に出ました。しかし、航海途上の12月5日、台湾北部の富基角から北方およそ100海里（約185km）の海域で、艦隊は激しい暴風雨に遭遇しました。

この悪天候の中、早蕨は推定される原因として、煙突からの浸水によって機関が停止し、航行能力を失ったと考えられています。動力源を失った艦は、荒れ狂う波浪の中で制御不能となり、最終的に転覆・沈没しました。この事故の背景には、竣工以降の様々な改修によって上部構造物の重量が増加し、艦本来の復元性（傾いた際に元の状態に戻ろうとする力）が悪化していたことが指摘されており、これが悪天候下での転覆を招いた主な要因と推定されています。

事故発生後、同行していた駆逐艦各艦に加え、馬公から急行した巡洋艦「北上」および「五十鈴」が救助活動にあたりました。しかし、暴風雨の中での救助作業は困難を極め、沈没当日のうちに救助された乗組員は、総員120名のうちわずか14名にとどまりました。多くの乗員がこの事故により命を落とすこととなり、帝国海軍にとって大きな損失となりました。

歴代の指揮官たち

早蕨の艦長を務めた人物は複数名に上ります。艤装員長として竣工準備を指揮したのは柳原信男少佐で、彼はそのまま初代駆逐艦長も務めました。その後、須賀彦次郎少佐、藤田類太郎少佐（兼任）、勝野実少佐（兼任）、手束五郎少佐、秋山輝男少佐、橘正雄少佐（兼任）といった面々が指揮を執りました。そして、事故発生時の艦長は門田健吾大尉でした。門田大尉は艦と運命を共にし、殉職しています。

早蕨の沈没事故は、当時の小型艦艇、特に改修による重量増加が復元性に与える影響という、設計・運用の両面における重要な課題を浮き彫りにしました。その悲劇的な最期は、後の艦船設計や安全基準に教訓を残すこととなりました。

参考文献として、『聯合艦隊軍艦銘銘伝』、『日本海軍史』、そして当時の公的記録である『官報』などによって、その歴史が今に伝えられています。

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