明徳の和約

明徳の和約

明徳の和約は、日本の南北朝時代末期に、北朝（室町幕府）と南朝の間で締結された講和条約です。この和約は、明徳3年/元中9年10月27日（1392年11月12日）に成立し、南北朝合一の決定的な契機となりました。この条約は「南北合体条件」とも呼ばれています。

和約の背景

南北朝時代は、後醍醐天皇の死後、朝廷が北朝と南朝に分裂し、約50年以上にわたって対立が続いた時代でした。当初、南朝は優勢な時期もありましたが、足利尊氏が擁立した北朝が室町幕府を開き、武士団を掌握するようになると、次第に北朝優位の流れが強まりました。特に、3代将軍足利義満の時代には、南朝を支持する勢力が各地で潰走し、南朝は吉野周辺に追い込まれ、北朝優位が決定的なものとなりました。

義満は、明徳の乱で有力守護大名の山名氏を弱体化させ、武家勢力を掌握すると、南朝と領地を接する大内義弘の仲介で本格的な和睦交渉を開始しました。この交渉の結果、南朝は北朝への譲歩を余儀なくされ、和約が成立しました。

和約の内容

和約の内容は主に以下の4点でした。

1. 南朝の後亀山天皇から北朝の後小松天皇への「譲国の儀」における三種の神器の引渡し。
2. 皇位は両統迭立とする（南朝系皇族の立太子）。
3. 国衙領を大覚寺統の領地とする。
4. 長講堂領を持明院統の領地とする。

これらの条件に基づき、後亀山天皇は京都に帰還し、後小松天皇に神器を譲り渡しました。これにより、南北朝合一が実現し、分裂状態にあった朝廷は統一されました。

和約後の動きと影響

しかし、この和約は必ずしも円満に進んだわけではありません。和約の内容は北朝には事前に知らされておらず、特に両統迭立の条件は、北朝から強い反発を受けました。後小松天皇は後亀山天皇との会見を拒否し、神器もすぐに内裏に移されました。また、元号も北朝の「明徳」が継続され、南朝の影響は排除される形となりました。国衙領についても、実際には南朝側が主張していた国衙領の国家への帰属は実現せず、北朝側の実質私有化が認められる形となり、南朝はほとんど権益を得ることができませんでした。

また、両統迭立の約束は、後小松天皇が嫡子の称光天皇に譲位したことで反故にされました。さらに称光天皇には嗣子がなく、持明院統の嫡流が断絶した後も、後小松上皇は伏見宮家から猶子を迎え後花園天皇を立て、再び約束を破りました。これに反発した南朝の遺臣たちは、後南朝として抵抗を続けました。

和約の研究

この和約に関する研究は、大正時代に三浦周行が近衛家蔵文書の中から、和約の条件を記した義満の請文の案文を発見したことから進展しました。三浦の論文『南北合体条件』によって、初めて史料に基づいた議論が可能になりました。

「明徳の和約」という語は、瀧川政次郎の論文『後南朝史論集』などで使用されるようになり、現在では一般的な用語となっています。

まとめ

明徳の和約は、南北朝の分裂に終止符を打ち、朝廷を統一した重要な出来事でしたが、その内容は必ずしも南朝にとって有利なものではありませんでした。この和約は、その後の歴史にも大きな影響を与え、南北朝時代を考える上で欠かせない要素となっています。

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