明星 (航空機)

幻の木製爆撃機「明星」

「明星（みょうじょう）」は、大日本帝国海軍が第二次世界大戦末期に試作した木製爆撃機です。正式な型式名はD3Y1-K。当時、南方からの資源輸送が困難になり、ジュラルミンなどの金属資源が不足する中で、イギリスの高速木製機モスキートの活躍に刺激を受け、九九式艦上爆撃機をベースに木製化を試みた機体です。開発は海軍の航空技術廠（空技廠）が担当し、製造は松下幸之助が軍の要請で設立した松下飛行機株式会社で行われました。

開発の背景

1943年頃から、南方からの輸送が途絶えがちになり、航空機に使用するジュラルミンの入手が困難になりました。そこで海軍は、木製航空機を開発する方針に転換。空技廠は、旧式化が進んでいた九九式艦上爆撃機をベースに、木製爆撃機の開発に着手しました。この際、金属製の九九式練習用爆撃機（D3A2-K）も並行して試作されました。

設計と構造

九九式艦上爆撃機をそのまま木製化することは不可能だったため、強度確保と生産効率向上のため、大幅な設計変更が行われました。主翼と尾翼は、楕円テーパー翼から直線テーパー翼に変更され、面積も縮小されました。また、胴体は約1.3メートル延長され、風防も延長されました。細部の構造や形状も木製化に合わせて簡略化されましたが、エンジンやプロペラは原型機を踏襲しました。

機体の骨格には松やヒノキ材が使用され、ボルトで固定されています。外板にはバルサ材の積層材が使われ、尿素樹脂で接着。さらに、旧来の羽布張りも多用されました。モスキートに多用されたエポキシ樹脂は、当時日本では工業化されていなかったため、接着剤の強度調整にはきな粉が使われたという逸話も残っています。

機体の製造は、木造船の量産で実績のあった松下造船に委託され、同社社長で松下幸之助の義弟である井植歳男が、1943年10月に専用工場（松下飛行機株式会社）を設立しました。しかし、松下飛行機は家電などの木工部品の製造経験はあったものの、航空機に求められる品質や信頼性に対する認識や経験が不足しており、製造は大幅に遅延しました。

試作と試験

1944年春から実機製作が開始されましたが、試作1号機が完成したのは1945年1月31日。完成後、進空式が行われました。

しかし、試作1号機では、風防の隙間から浸入した気流が胴体を共振させ、尺八のような音が機内に響き渡り、パイロットを悩ませました。そのため、試作3号機からは各部の再設計が行われ、重量軽減も図られました。

試作機は、原型機と比較して重量が2割から3割増加し、飛行性能は大幅に低下しました。計画では時速350kmの性能を出す予定でしたが、軍の目標であった月産200機を大きく下回り、終戦までに完成したのはわずか4機にとどまりました。また、試作機のうち1機は、設計値未満の軽G旋回中に主翼が空中分解する事故を起こしましたが、パイロットは無事に生還しました。

結局、「明星」は試験に供されただけで実用化には至らず、前線配備されることなく終戦を迎え、幻の爆撃機となりました。

スペック

全長: 11.51m
全幅: 13.92m
全高: 3.30m
主翼面積: 32.84平方メートル
重量: 3,133kg
全備重量: 4,200kg
発動機: 三菱 金星54型 空冷複星型14気筒
出力: 1,200hp
最大時速: 426km/時
航続距離: 1,302km
最高上昇高度: 9,000m
武装: 7.7mm機関銃×3、爆弾60kg×2または30kg×4
乗員: 2名

参考文献

『航空情報 1960年9月号』 海法泰治著「明星始末記」節 酣燈社

外部リンク

* パナソニック企業情報 > 会社情報 > 創業者 松下幸之助 > 松下幸之助の生涯 75.軍の要請で松下飛行機(株）を設立　1943年（昭和18年）

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