明治文化全集

明治文化全集：近代日本の礎を築いた文献集成

明治文化全集は、1927年から1932年にかけて日本評論社から刊行された、明治時代の重要な文献を集成した叢書です。関東大震災による史料の散逸を危惧した吉野作造ら8名によって設立された明治文化研究会が、近代日本社会の形成に影響を与えた文献を選定、編集しました。最終的には、1967年から1974年にかけて刊行された全32巻の第3版が決定版として広く知られています。

成立背景と編集方針

1924年、関東大震災の発生をきっかけに、貴重な史料の喪失を防ぐ必要性が強く認識されました。この危機感から、吉野作造を会長とする明治文化研究会が結成され、『明治文化全集』の編纂が開始されました。編集にあたっては、単なる文献の集積ではなく、近代日本の形成を多角的に理解するための視点が重視されました。そのため、明治維新から大日本帝国憲法発布、議会開設に至る明治前期を中心とした約450点の文献が厳選され、各巻には詳細な解題と年表が添えられています。

収録文献には、現在では稀覯本となっている刊行物や、公刊されなかった報告書、意見書、建白書なども含まれており、その内容は多岐に渡ります。自由民権、文明開化、社会問題など、当時の社会状況を反映したテーマが網羅されており、社会史、民衆史的な関心の高さが伺えます。特に、大正デモクラシー期の自由主義的な史観が色濃く反映されており、多様な文化が花開いた明治時代の姿を多角的に捉えようとする意図が明確に示されています。

明治史研究における意義

それまでの日本史研究は、主に江戸時代以前を対象とするものが主流であり、明治維新前後の時代は学術的な研究対象として十分に扱われていませんでした。しかし、『明治文化全集』の刊行は、明治時代研究の大きな転換点となりました。この全集が、歴史資料の整備と研究の進展を促し、明治時代に関する関心の高まり、いわば「明治ブーム」の到来に貢献したと言えるでしょう。1927年（明治60年）に制定された明治節も、この流れと無関係ではありません。

版の歴史と構成

『明治文化全集』は、初版の24巻から始まり、その後、再版（16巻）、そして決定版となった第3版（32巻）と、幾度かの改訂を経て内容が充実しました。版を重ねるごとに、新たな文献が追加され、構成も変更されています。第3版では、初版の全巻に加え、再版で追加された文献、さらには新たに5巻が追加され、明治時代の多様な側面をより包括的に捉えることができるようになりました。

関連文献と関連叢書

『明治文化全集』は、明治史研究に多大な影響を与えただけでなく、後続の研究にも大きな影響を与え、多くの関連文献や叢書が出版されています。例えば、『明治文化資料叢書』や『日本近代思想大系』などは、内容的に『明治文化全集』と密接に関連しており、明治時代の研究をより深く理解するための重要な資料となっています。

まとめ

『明治文化全集』は、単なる文献集ではなく、近代日本を理解するための貴重な資料群です。その編集方針、収録内容、そして後世への影響を考えると、日本の近代史研究において極めて重要な位置を占めていると言えるでしょう。現在でも、明治時代の社会、政治、文化、思想を研究する上で欠かせない基本文献であり続けています。

もう一度検索