明石ダコ

明石ダコ

明石ダコは、兵庫県の明石海峡とその周辺海域で獲れるマダコです。この海域は、複雑な地形と豊かな生態系に恵まれており、明石ダコはその恩恵を一身に受けて育ちます。海底には岩場や砂場が入り混じり、エビ、カニ、貝類など、タコの餌となる良質な生物が豊富に生息しています。

特徴

明石ダコの最大の特徴は、その弾力のある歯ごたえと濃厚な旨味です。激しい潮流にもまれて育つことで身が引き締まり、豊富な餌によって味が深まると言われています。その美味しさから、明石ダコは兵庫県の地域ブランドとして広く知られています。

漁獲量は日本一を誇り、年間約1000トンもの明石ダコが水揚げされています。特に6月から8月にかけてが旬であり、梅雨明けの7月、8月頃には漁が最盛期を迎えます。この時期、漁師が麦わら帽子をかぶって漁に出ることから、「麦わらダコ」とも呼ばれています。足が太く短く、陸でも立って歩くほどの力強さも特徴です。

歴史

明石海峡におけるタコ漁の歴史は古く、2000年以上前のイイダコ漁に使われたタコ壷が発見されています。弥生時代から現代に至るまで、漁獲方法は底引き網やタコ壷が中心で、一本釣りも行われていますが、漁の形態に大きな変化はありません。食習慣も同様に、古代から受け継がれています。

江戸時代の産業図鑑『日本山海名産図会』には、明石と高砂のタコ漁が有名であると記されています。高砂ではアカニシの殻を使ったイイダコ漁が行われていましたが、マダコ漁においては明石が全国的に知られていました。

しかし、明石ダコは寒さに弱いという弱点も抱えています。1963年の「三八冷害」では海水温が4度まで低下し、明石ダコはほぼ絶滅状態となり、水産業に大きな打撃を与えました。その後、兵庫県や漁業関係者が熊本県の天草地方や長崎県の五島列島から親ダコを購入し放流することで、資源の再生が図られました。この時、多くの漁業者がノリ養殖に転換したというエピソードも残っています。

その後も、1983年や1996年にもタコの減少が起こり、記録的な不漁に見舞われました。その都度、子持ちダコを選別して海に戻すなどの増殖策が実施され、資源の回復に努めてきました。近年では、2016年以降再び漁獲量が低迷しており、2018年には海水温低下の影響で漁獲量が激減しました。これに対し、東播磨底曳網漁業協議会による子持ちダコの放流や、明石市によるふるさと納税制度を活用した資源保護の取り組みが行われています。

地域ブランドとして

江戸時代、関東地方ではあまり好まれなかったタコですが、大阪を中心とした関西地方では非常に人気がありました。明石ダコがブランドとして確立された時期は明確ではありませんが、昭和初期に大阪で生まれたたこ焼きと明石焼きが広まる中で、明石ダコも有名になったという説があります。

現在、明石ダコのブランド定義は曖昧で、具体的な漁獲海域は明確になっていません。そのため、明石市以外で水揚げされたタコも明石ダコとして流通している現状があります。

関西地方には、半夏生（はんげしょう）にタコを食べる「半夏蛸」という風習があります。これは、タコが大地に吸い付くように、稲が広がることを祝う縁起物であり、明石ダコもこの時期に大きな需要があります。明石市内では、「明石半夏生たこまつり月間」が開催され、魚の棚商店街を中心に、明石ダコを使った様々な特別メニューが提供されています。

明石ダコを使った料理としては、明石焼き、タコ飯、タコ天などが有名です。特に「明石焼き」は、2016年の「B-1グランプリ」で優勝し、その人気を不動のものとしました。

明石ダコは、その美味しさだけでなく、歴史や文化にも深く根ざした、地域を代表する味覚です。

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