春のゆくえ

「春のゆくえ」（はるのゆくえ）は、日本の楽曲の一つで、叙情的なメロディーと歌詞が特徴です。この曲の作詞は山川啓介、作曲は鈴木邦彦が手がけ、乾裕樹が編曲を担当しています。

本楽曲は、1975年の2月から3月にかけて、NHKの音楽番組『みんなのうた』で初めて紹介されました。この番組を通じて、多くの視聴者に親しまれることとなります。歌詞では、春が巡ってくるたびに、過ぎ去った一年前の自分を振り返りつつ、少しずつ成長していく一人の少女の姿が情感豊かに描かれています。

歌唱を担当したのは、当時トップアイドルとして絶大な人気を誇っていた桜田淳子です。放送当時は16歳であった彼女の清純なイメージと、楽曲の世界観が見事に融合しました。歌詞の中には「15の少女」や「花占い」といったフレーズが登場し、これらは当時の桜田淳子自身の年齢や活動と重なる部分があり、聴く者に彼女を強く想起させる要素となっていました。

『みんなのうた』において、桜田淳子が単独で歌唱した楽曲は、この「春のゆくえ」が唯一です。しかし、番組での扱いはやや特異なものでした。同じ1975年2月から3月にかけて放送された他の楽曲、例えばかまやつひろしの「動物園へ行こう」、一谷伸江とデューク・エイセスによる「カッパのクィクォクァ」、五木ひろしの「いかつり唄」などは、翌年の1976年2月から3月にかけて再放送されています。それにもかかわらず、「春のゆくえ」だけが再放送のラインナップから外され、その後も長期にわたってテレビでの再放送は一度も行われませんでした。

さらに、楽曲の公式な音源化についても、長らく実現しない状況が続きました。桜田淳子の名義でシングルとしてリリースされたり、彼女のオリジナルアルバムに収録されたりするといった単独でのレコード・CD化は行われませんでした。また、NHKから発売されている『みんなのうた』関連のDVDシリーズにも、現時点まで本楽曲は収録されていませんでした。

このように、テレビでの再放送もなく、単独での音源化もされなかったため、「幻の名曲」として扱われることも少なくありませんでした。しかし、待望の公式音源化が実現したのは、2021年のことです。NHK『みんなのうた』の放送開始60周年を記念して、日本の主要レコード会社5社（キングレコード、ソニー・ミュージックダイレクト、ポニーキャニオン、日本コロムビア、ビクターエンタテインメント）が協力し、オムニバスCDシリーズ『NHKみんなのうた 60 アニバーサリー・ベスト』が企画・発売されました。このシリーズのうち、2021年5月19日にリリースされたビクターエンタテインメント盤に、「春のゆくえ」が収録されたのです。これは、1975年の初放送から実に46年の歳月を経て、初めて公式にCD化されたことを意味し、長年この曲の音源化を待ち望んでいたファンにとって、記念すべき出来事となりました。

「春のゆくえ」は、一人の少女の成長という普遍的なテーマを、日本の美しい春の情景に重ね合わせ、当時の人気アイドル桜田淳子の歌声に乗せて届けられた、記憶に残る楽曲と言えるでしょう。長年の空白期間を経て再び公式音源として日の目を見たことで、新たな世代にも聴かれる機会が生まれることが期待されます。

もう一度検索