春の庭

『春の庭』

概要

『春の庭』は、柴崎友香による小説で、2014年6月に『文學界』で発表され、同年の第151回芥川賞を受賞しました。物語は、主人公の弟太郎と彼のアパートに住む女性漫画家西との関わりを中心に展開します。西は、彼女が憧れ続けている美しい建物に隣接するアパートに住んでおり、写真集『春の庭』に魅了されています。

あらすじ

物語は、弟の太郎がアパートで不審な女性を発見するところから始まります。その女性は「西」という名の漫画家であり、アパートの「辰」という部屋に居住しています。彼女は高校生の頃に出会った写真集『春の庭』に強く影響を受け、その中に写る美しい水色の建物を求めてこの地に引っ越してきたのです。

この水色の洋館には森尾一家が住んでいて、西は彼らと仲良くなることに成功します。しかし、彼女が最も憧れるその家の黄緑のタイルの貼られた風呂場に入る機会を得ることはなかなか難しい状況です。そこで西は、自らの計画に弟の太郎を巻き込むことにします。ホームパーティーの際に事故を装い、風呂場に入る機会を見つけようとするのです。

不意の展開を経て、ついに西は憧れの風呂場に足を踏み入れます。しかし、彼女の憧れの場所も長くは続かず、その後森尾一家は引っ越してしまいます。太郎はその後、父の遺骨を砕いた道具を使って、果敢にも不法侵入し、かつての夢の庭に埋め込むという行動に出ます。

登場人物

- 太郎: 元美容師で、離婚歴を持つ。面倒ごとを避ける性格。
- 西: 太郎のアパートに住む漫画家。憧れの建物についての思いが強い。
- 巳さん: 太郎の父と同じ年代の女性で、アパートの住人。
- 沼津: 太郎の同僚で、結婚して北海道に移住。
- 森尾実和子: 水色の建物に住む家族の一員。北海道出身で、夫と子どもたちと生活している。
- わたし: 太郎の姉として物語の語り手。

評価と反響

本作は芥川賞受賞以降、多くの評論家からざまざまな評価を受けています。山田詠美は著者の描写の巧妙さを称賛し、村上龍はアパートの描写に対して批判を加えました。川上弘美や小川洋子もそれぞれの観点から作品を推し評価しました。

特に著者は授賞式で、ヴィスワヴァ・シンボルスカの詩の一節を引用し、作品のテーマである現実への探求の意義を示しました。

物語の中で語り手が太郎の姉であることや、人物同士の複雑な関係性についても、さまざまな解釈が存在しています。全体として『春の庭』は、単なるストーリーを超えた、深い人間関係を描いた作品として、多くの読者に印象を残しました。

書籍情報

- 単行本: ページ数141、出版社は文藝春秋、ISBN 978-4163901015、発売日2014年 7月28日。
- 文庫本: 245ページで、収録作品は「春の庭」「糸」「見えない」「出かける準備」。出版社は文藝春秋、ISBN 978-4167908270、発売日2017年4月7日。

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