昭和28年台風第13号

昭和28年台風第13号：未曽有の災害と復興への道のり

1953年（昭和28年）9月25日、猛烈な台風第13号（国際名：テス）が紀伊半島に上陸し、近畿地方を中心に壊滅的な被害をもたらしました。この台風は、同年夏に発生した西日本大水害、紀州大水害に続く大災害となり、日本社会に大きな衝撃を与えました。

台風の発生と急激な発達

台風13号は9月16日、カロリン諸島東部で発生した熱帯低気圧が起源です。グアム島近海で台風となり、西進しながら一旦は勢力を弱めましたが、沖ノ鳥島付近で急激に発達。アメリカ軍の観測によると、わずか5時間足らずで中心気圧が96mbも低下するという、類を見ないスピードで猛烈な台風へと変貌を遂げました。これは気象観測史上、最も短時間での急発達事例として記録されています。

勢力を保ったまま北上した台風は、9月25日午後3時には潮岬東方30kmを通過、その後志摩半島に上陸。伊勢湾南部を通って愛知県知多半島に再上陸し、本州中部を縦断した後、三陸沖で温帯低気圧に変わって消滅しました。上陸時の中心気圧は930mbと、依然として非常に強い勢力を保っていました。

未曾有の被害と報道

台風接近前から秋雨前線が活発で、既に西日本各地は雨に見舞われていました。台風の上陸は、河川の増水、高潮、暴風と、様々な災害を同時にもたらしました。死者・行方不明者478名という大きな人的被害に加え、全壊家屋8,604棟、床上浸水家屋144,300棟、流失家屋2,615棟など、甚大な物的被害が発生しました。

特に三重県、愛知県沿岸部では高潮による被害が深刻でした。満潮と重なった台風の襲来は、沿岸部を水没させ、多くの家屋が流失、浸水しました。愛知県では、156kmに渡る海岸堤防が被災し、広大な農地も冠水しました。

興味深いことに、この年既に西日本大水害、紀州大水害が発生しており、初期段階で100人以上の死者が出ていたにも関わらず、当時の報道は「台風被害、予想より軽減」「西日本災害より規模小」といった内容でした。これは、相次ぐ大災害への国民の疲労感、そして政府による被害の矮小化の試みなども背景にあったと考えられます。

淀川水系の洪水と各地の被害

淀川水系では過去最大の洪水が発生しました。宇治川、桂川、木津川流域では堤防が決壊し、広範囲に浸水被害が発生。この災害を契機に、「淀川水系改修基本計画」が策定され、大規模な河川改修事業が始まりました。

京都府では死者・行方不明者119名、大阪府では死者26名など、各地で甚大な被害が発生しました。特に京都府では、1か月前に集中豪雨による南山城水害が発生したばかりで、この台風による被害は追い打ちをかける形となりました。

滋賀県でも、野洲川、安曇川の堤防が決壊し、多数の死者が出ました。

台風観測と命名

第二次世界大戦後、日本の台風観測はアメリカ軍との協力体制で行われており、台風にはアメリカ女性の名前が付けられていました。1953年から、日本独自の通し番号による命名法が導入されました。

台風13号の教訓とその後

昭和28年台風第13号は、日本の防災体制、そして国民の防災意識に大きな影響を与えました。この災害を教訓として、その後、河川改修、堤防強化などの治水対策が進められ、後の台風災害における被害軽減に貢献しました。しかし、自然災害の脅威は依然として大きく、継続的な防災対策の重要性が改めて認識されています。

参考資料

気象庁：災害をもたらした気象事例（台風第13号）
国立情報学研究所（デジタル台風）：台風195313号（TESS）
* 杉浦明平『ルポルタージュ　台風十三号始末記』（1955年）

もう一度検索