安曇川

安曇川（あどがわ）：歴史と文化を育む琵琶湖最大の流入河川

安曇川は、京都府と滋賀県をまたぎ、淀川水系に属する一級河川です。全長は約58km、流域面積は約419㎢に及び、琵琶湖に流れ込む河川の中で、最も多い水量を誇ります。その豊かな水量は、多雪地帯と豊かな森林に支えられています。安曇川は、京都市左京区北東部の丹波高地、百井峠付近に源を発し、東へと流れて滋賀県大津市に入ります。その後、V字状の峡谷を北北東に流れ、針畑川と合流、さらに北川と合流して、高島市へと至ります。近江耶馬渓と呼ばれる峡谷を抜け、沖積三角州を経て、琵琶湖へと注ぎ込みます。

安曇川の地理的特徴

安曇川の特徴的な点として、京都市に源流を持ちながら、淀川水系でありながら琵琶湖に流れ込む唯一の川であることが挙げられます。また、一部区間が天井川となっていることも特徴的です。安曇川の河口付近には、右岸と左岸に放水路が設けられています。右岸放水路が現在の本流となっており、アユやハスを獲るためのヤナが設置されています。一方、左岸放水路は、北船木の北側を流れ、琵琶湖に注ぎます。

安曇川の歴史と流域の社会

「安曇川」という名称は、3世紀以前に近江に定住した阿曇氏に由来すると考えられています。「アヅミ」は、「イズミ（泉）」や「イド（井戸）」と同様に、水が湧く場所を指す言葉が変化したものとされています。安曇川流域では、縄文時代から人々の活動が見られ、石器の材料となるチャートや、磨製石斧、石鏃などが発掘されています。弥生時代の史料はまだ発見されていませんが、古墳時代の須恵器の破片や、古墳と考えられる塚状の地形の伝承から、8世紀以前から人々の定住があったと考えられます。

奈良時代には、東大寺に属する石山院の下で、高島に製材所があったことが「正倉院文書」に記されています。また、「杉榑漕運功銭米注文」という報告書には、高島の山中から切り出した材木を、筏に組んで安曇川を下り、琵琶湖を経て奈良まで運んだ記録が残っています。

筏流し

安曇川流域は、古くから木材の産地として知られており、伐採した木材を筏に組んで川を下る「筏流し」が盛んに行われていました。沿岸には、筏乗りの守り神であるシコブチ神を祀る神社が多数存在し、河童の伝説も残っています。葛川谷や朽木谷で伐採された木材は安曇川を下り、南船木で集積されました。筏流しは、昭和に入ると衰退し、1948年頃には姿を消しましたが、江戸時代には船木に税の徴収を行う番所が置かれ、多くの材木商人が集まっていました。現在でも、安曇川沿いには多くの製材所が残っています。

扇骨

安曇川の氾濫を防ぐために植えられた真竹は、高島扇骨の材料として利用され、国内生産量の9割を占めていました。しかし、竹林の減少に伴い、材料は九州方面からも調達されるようになっています。

安曇川は、豊かな自然と歴史、文化を育んできた川です。その流れは、今もなお人々の生活を支え続けています。

参考文献

「角川日本地名大辞典」編纂委員会『角川日本地名大辞典　25滋賀県』角川書店、1979年
滋賀県教育委員会事務局文化財保護課『街道でめぐる滋賀の歴史遺産』サンライズ出版、2019年
* 石田敏『安曇川と筏流し』京都新聞出版センター、2013年

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