昭和45年1月低気圧

（しょうわ45ねん1がつていきあつ）

1970年（昭和45年）1月30日から2月2日にかけて、日本列島に大きな被害をもたらした温帯低気圧です。この低気圧は、その急激な発達から「爆弾低気圧」とも呼ばれ、気象庁によって個別に命名された、現時点では温帯低気圧としては唯一の事例となっています。

発生と発達

この低気圧は、台湾付近で発生した南岸低気圧、いわゆる「台湾坊主」が起源とされます。低気圧はその後、北東へと進路を取り日本へと接近しました。特筆すべきは、日本に近づくにつれてその勢力を著しく強めたことです。わずか24時間の間に中心気圧が32ヘクトパスカルも低下するという驚異的な発達を遂げ、「爆弾低気圧」の様相を呈しました。

通常、冬期の低気圧は太平洋側を比較的速く通過することが多いのですが、この低気圧は冬場としては珍しく日本の内陸を縦断するような経路を取りました。また、多量の暖気が低気圧中心付近に流れ込んだことも、その急速な発達を後押ししました。最も勢力を強めたのは1月31日21時頃で、中心気圧は962ヘクトパスカルにまで低下しました。

記録的な観測値

この低気圧の通過に伴い、各地で過去に類を見ない気象記録が観測されました。

特に、東北地方や北海道の多くの観測地点では、観測史上最低気圧を更新しました。具体的には、青森県青森市で962.7ヘクトパスカル、秋田県秋田市で963.8ヘクトパスカル、宮城県仙台市で967.1ヘクトパスカルなど、合計10地点で従来の記録を塗り替えています。これは、東日本や西日本、南日本で最低気圧の記録が主に台風によって更新されることが多いのに対し、北日本では温帯低気圧によってそれが成された極めて異例なケースです。

風についても強烈な記録が残っています。最大瞬間風速は、岩手県宮古市で36.7メートル毎秒、青森県八戸市で33.4メートル毎秒、宮城県石巻市で30.2メートル毎秒、福島県福島市で28.0メートル毎秒を記録し、これらの地点でも観測史上1位となりました。

また、この時期としては異例の大雨や大雪ももたらされました。例えば、栃木県日光市では日降水量が126ミリメートル、北海道札幌市では日降雪量が63センチメートルを観測し、それぞれ観測史上1位の記録となりました。

影響と被害

昭和45年1月低気圧は、中部地方から北海道にかけての広範囲にわたり、大雨、大雪、暴風、そして一部では竜巻も発生させるなど、激しい気象現象を引き起こしました。これにより、沿岸部では高波やしけとなり、甚大な被害が発生しました。

人的被害は、死者14人、行方不明者11人の合計25人に及びました。

住宅被害も多数発生し、全半壊または流失した家屋が916戸、浸水被害を受けた家屋が4,422戸となり、合わせて5,000棟以上が被害を受けました。

海難事故も多発し、293隻の船舶が被害を受けました。特に福島県では被害が集中し、いわき市の小名浜港では貨物船「空光丸」が沈没する事故が発生し、乗組員24人のうち15人が犠牲となりました。福島県全体では、この低気圧に関連して16人が命を落としています。その他にも、各地で護岸が決壊するなど、インフラにも大きな被害が生じました。

気象庁による命名

気象庁は、台風や豪雨、地震や火山噴火など、特に社会的に大きな影響や被害をもたらした自然現象に対して、その後の防災活動や記録のために個別の名称を付与することがあります。しかし、これらの命名対象のほとんどは台風や豪雨であり、温帯低気圧に対して正式な名称が与えられたのは、この「昭和45年1月低気圧」が過去に例のない、唯一の事例となっています。これは、この低気圧がもたらした気圧の低下率や観測記録の特異性、そして何より広範で深刻な被害の大きさを物語っています。

（参考文献：国立天文台編『理科年表』など）

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