時服

時服（じふく）とは

時服とは、古代日本の律令制度下において、朝廷から皇族や官人に対して、年2回、季節の変わり目に支給された衣服の材料のことです。これは、現代におけるボーナスや手当のような役割を果たしており、当時の人々の生活を支える重要な制度でした。

皇族への支給

皇族、特に親王や内親王といった皇親への時服の支給は、彼らの生活を保障する重要な手段でした。皇親への支給は特に「王禄」と呼ばれ、その中でも女王に対して支給されるものを「女王禄」と称しました。

支給内容

「禄令」の規定によれば、13歳以上の皇親には、春（2月）に絁（あしぎぬ）2疋、糸2絇、布4端、鍬10口、秋（8月）に絁2疋、綿2屯、布6端、鉄4挺が支給されました。この量は、正七位の季禄を基準に、鍬・鉄は従八位の水準に下げ、秋の布は正六位の水準にさらに1端加えたものでした。また、乳母を賜っていた皇親には、春と秋の支給時に絁4疋、糸8絇、12端が支給されました。

支給の目的

時服は、官職を持たない皇族や、特に内親王などの女性皇族を経済的に保護する目的がありました。官職を持つ皇親は、五位以上に達した場合、季禄と比較して多い方が支給されました。ただし、時服料と季禄の併給については研究者の間で意見が分かれています。

支給の変遷

延暦6年（787年）には、六位の諸王が官職に就いた場合はその官職の季禄が、七位以下の場合は季禄に代わって時服料が支給されるようになりました。また、官職を持つ皇親で季禄が支給されない場合には、時服料が支給されるようになりました。貞観12年（870年）には、王氏で禄を賜う者が429人に限定され、さらに『延喜式』では、女王も262人に限定され、欠員が生じた場合にのみ補充されることになりました。

臣下への支給

臣下に対する時服は、当初は特定の者に対する褒賞として臨時に支給されることがありましたが、大同3年（808年）の詔によって、諸司にも時服が支給されるようになりました。当初は夏と冬の時服として分けられ、一定の勤務日数を満たした者に支給されました。その後、文官の勤務日数が諸衛と同じに改正され、初任者への給与に関する規定も定められました。ただし、山下信一郎の研究では、時服が令外の給与制度として、季禄とは別の体系で支給されていたとする説も提唱されています。

支給内容と目的

臣下に対する時服は、官人における季禄を補完する意味合いがあり、季禄の対象でない者にも支給されました。支給物は、官人1名分の衣服の材料とされ、冬の支給は夏の支給の倍に綿を加えたものでした。身分による支給量の差は少なかったものの、品質や色には差異がありました。弘仁3年（812年）には、女官職五位以上の者に対する時服支給が復活し、弘仁11年（820年）には細則が規定されました。『延喜式』では、諸官司（参議以上を除く）には6月と12月、後宮・宮人・女嬬には4月と10月に支給することが定められました。

女王禄の儀式

『延喜式』には、女王禄の儀式についても記述があります。白馬節会の翌日と新嘗祭の翌日に、紫宸殿の中庭で、女王に対し、絹2疋、綿6屯が支給されました。天皇が出御し、皇后をはじめとする女官が列席する中、官人が名簿を読み上げ、女王は進み出て禄を受けました。この儀式は、女王の皇族としての身分と天皇との関係を再確認する意味があったと考えられています。女王は後宮の宮人以外の官に就くことができず、非皇親との婚姻も許されていたため、この儀式が身分を保持する上で重要でした。

江戸時代の時服

江戸時代にも、将軍から大名や旗本へ時服が賜われることがありましたが、これは綿入りの小袖が与えられました。

このように、時服は古代から江戸時代にかけて、様々な形で支給され、人々の生活や社会制度に深く関わっていました。

参考資料

高橋崇「時服」（『国史大辞典 7』吉川弘文館、1986年）
荊木美行「時服」（『平安時代史事典』角川書店、1994年）
鬼頭清明「時服」（『日本史大事典 3』平凡社、1993年）
山下信一郎『日本古代の国家と給与制』（吉川弘文館、2012年）
「律令俸禄制と賜禄儀」（原論文『史学雑誌』第103編第10号（1994年））
「皇親時服料とその変遷」（原論文『続日本史研究』第289号（1994年））
* 「皇親給禄の諸問題」

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