時間と言葉

イエス『時間と言葉』：オーケストラとの融合に挑んだ意欲作

『時間と言葉』（Time and a Word）は、1970年に発表されたイエスのセカンド・アルバムです。1960年代末のロックシーンにおいて、アート志向の潮流が生まれ、その手法の一つとしてロックとクラシック音楽の融合が試みられました。本作は、イエスがその潮流に乗り、大胆な実験を行った作品として知られています。

オーケストラの導入

ジョン・アンダーソンは、イエスの音楽の幅を広げるため、本作の制作に際してオーケストラを導入することを提案しました。当初はメロトロンの使用も検討されましたが、より本格的な効果を求めて、本物のオーケストラを起用することになりました。この試みは、当時のプログレッシブ・ロック・シーンにおいても斬新なものでした。

カバー曲とオリジナル曲

前作同様、本作にもカバー曲が収録されています。「チャンスも経験もいらない」はリッチー・ヘヴンス、「エヴリデイズ」はバッファロー・スプリングフィールドの楽曲をそれぞれカバーしています。特に「チャンスも経験もいらない」では、オーケストラによる壮大な演奏が、原曲とは異なる印象を与えています。「エヴリデイズ」は、静と動のコントラストを強調したアレンジが施されています。

オリジナル曲は、ジョン・アンダーソンが主導して制作されました。「スウィート・ドリームス」と「時間と言葉」は、彼が以前在籍していたバンド、ウォリアーズのデイヴィッド・フォスターとの共作です。これらの楽曲は、前作からの発展を感じさせる、質の高い仕上がりとなっています。

評価と影響

本作は、前作の延長線上にあるものの、オリジナル曲、カバー曲のアレンジともに、質が向上しています。しかし、オーケストラの演奏とイエスの演奏が必ずしも調和していないという指摘もあります。ピーター・バンクスは、オーケストラの導入によって、自身のギターやトニー・ケイのキーボードが霞んでしまったと感じていたようです。

本作は、バンドの音楽性の幅を広げようとする意欲が感じられる作品ですが、同時に、メンバー間の音楽性の違いが表面化し始めた時期でもありました。実際に、本作発表後、ピーター・バンクスは解雇され、イエスを脱退しています。

アメリカ盤のアルバム・ジャケットには、新メンバーのスティーヴ・ハウが写っており、新たな時代の幕開けを予感させます。また、「チャンスも経験もいらない」「ゼン」「エヴリデイズ」「星を旅する人」のビデオが、新しいメンバーで撮影されました。

収録曲

A面
1. チャンスも経験もいらない
2. ゼン
3. エヴリデイズ
4. スウィート・ドリームス

B面
1. 予言者
2. 澄みきった日々
3. 星を旅する人
4. 時間と言葉

レコーディング・メンバー

ジョン・アンダーソン – ボーカル、パーカッション
クリス・スクワイア – ベース、ボーカル
ビル・ブルーフォード – ドラム、パーカッション
トニー・ケイ – ハモンドオルガン、ピアノ
ピーター・バンクス – ギター、ボーカル

アディショナル・ミュージシャン

デイヴィッド・フォスター – ボーカル（「スウィート・ドリームス」）、アコースティックギター（「時間と言葉」）
トニー・コックス – アレンジ、指揮
王立音楽大学の学生 – ブラス、ストリングス

『時間と言葉』は、イエスの音楽的冒険心を示すと同時に、バンドの変遷期を象徴する作品として、プログレッシブ・ロック・ファンにとって重要な一枚と言えるでしょう。

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