智慧

仏教における智慧（ちえ）

仏教において「智慧」とは、一切の現象やその背後にある道理を見きわめる心の働きを指す言葉です。この言葉は、仏教の根本教義において非常に重要な概念であり、様々な文脈で使用されています。

智慧の３つの意味

「智慧」という言葉は、その原語と訳語の用いられ方を考慮すると、主に以下の3つの意味合いで使用されます。

1. 梵語 prajñā の訳語としての智慧

この場合の智慧は、梵語の「prajñā」の訳語であり、音写語である「般若」と同等の意味で使用されます。般若は、仏教における六波羅蜜（ろくはらみつ）と三学（さんがく）の一つであり、物事の本質を見抜くための重要な要素です。詳細については、般若に関する項目を参照してください。

2. 智と慧を区別する場合の智慧

この場合は、智（梵: jñāna）と慧（梵: prajñā）を区別して用いる場合に「智慧」という言葉が使われます。智は、物事を識別し判断する能力を指し、慧は、真理を悟るための洞察力を指します。部派仏教以降、この区別が明確になり、説一切有部では、慧は心作用の一つとして位置づけられました。智は悟りに導く心的能力として、慧の中心的な意味を担うとされました。大乗仏教においては、般若経で慧（般若）が重視され、一方、十地経では智が最高位に置かれました。特に瑜伽行派では、実践論において智がより重視されました。また、大乗仏教では三智が説かれ、密教では、清浄法界を大日[[如来]]の法身とし、法界体性智という名を与え、五智・五仏の説が唱えられました。

中国仏教や日本仏教では、智を世俗的な真理を理解するもの、慧を真理を悟るものと意味づけました。

3. 漢訳語として独自の意味を持つ場合の智慧

この場合の智慧は、原語の意味に関わらず、漢訳語として独自の意味を持つ場合です。『岩波 仏教辞典』第二版によると、この意味での智慧は、上記1（般若と同等の意味）と上記2（智と慧を区別する場合）の両方の意味を含み、より広い意味で用いられています。世俗的な賢しさとは異なり、物事を離れた叡智や、世事を見通す力を指すことが多いです。

まとめ

智慧は、仏教において非常に重要な概念であり、その意味合いは多岐にわたります。原語の訳語としての意味合い、智と慧を区別する場合、そして漢訳語として独自の意味を持つ場合があり、文脈によってその意味を理解する必要があります。智慧は、単なる知識ではなく、物事の本質を理解し、真理を悟るための心の働きであると言えるでしょう。

関連項目

* 老子: 老子は、「大道廃、有仁義。智慧出、有大偽。」と、儒教の形式主義的な智慧を批判しています。

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