暁の歌 (シューマン)

ロベルト・シューマンのピアノ独奏曲集「暁の歌」（Gesänge der Frühe, 作品133）は、彼の最晩年の作品の一つで、全5曲から構成されています。シューマンがこの作品に取り掛かった1853年10月は、彼が梅毒の悪化による精神的な不調に苦しんでいた時期でした。しかし、この作品は明晰な形式、調性、旋律構成を示しており、彼の音楽的才能が衰えていなかったことを示しています。ただし、作曲過程はシューマンの集中力の低下や精神状態の不安定さから難解なものとなりました。

この作品は、シューマンが自殺未遂を起こし精神病院に収容されるわずか5ヶ月前に作曲され、「偉大なる女性詩人」ベッティーナ・フォン・アルニムに献呈されました。1855年に出版された際、シューマンは出版社への手紙で「この小品集は夜明けに感じることを描写しています。けれどもそれは、情景描写というよりも感情表現としての表現なのです」と述べています。

シューマンの妻クララ・シューマンは、この作品を「いつもと同じように独創的だが難解で、その響きは甚だ奇妙」と日記に記しています。晩年のシューマンの作品に共通する特徴として、その音楽は非常に繊細で美しく、時に落ち着きを失うような不安定さも持ち合わせています。彼の精神的な混乱が音楽に影を落としているとも解釈できます。この作品は、シューマンが作曲した最後のまとまったピアノ作品として知られています。

スイスの作曲家ハインツ・ホリガーは1987年に、管弦楽、合唱とテープのための同名の作品『暁の歌』を作曲し、その中でシューマンとドイツの詩人フリードリヒ・ヘルダーリンを引用しています。

全5曲は、ニ長調の主要三和音であるニ、嬰ヘとイによって調性的にまとめられています。第1曲、第2曲、第5曲はニ長調、第4曲は嬰ヘ短調、第3曲はイ長調で構成されています。演奏時間は約13分です。

各曲の詳細

第1曲：Im ruhigen Tempo (落ち着いたテンポで、ニ長調)

単純なリズムによるコラールのような曲で、多くの不協和音が透明なテクスチュアに溶け込んでいます。最後の2つのフレーズでは、主旋律がストレッタとして現れます。全体として、喚起的な、ほとんど宗教的な雰囲気を醸し出しています。

第2曲：Belebt, nicht zu rasch (元気に、速すぎないように、ニ長調)

ほぼ全曲が対位法的に構成されています。作曲者は聴き手に主和音の所在を明確には示しません。特異な和声、明瞭なカデンツの欠如、そして予測不可能な強弱法が特徴です。

第3曲：Lebhaft (生き生きと、イ長調)

ギャロップのリズムが全曲を通して続きます。オクターブと大きな和音が重々しい響きを生み出しています。

第4曲：Bewegt (動きをもって、嬰ヘ短調)

滝のように流れる32分音符の伴奏に、叙情的で歌うような旋律が絡み合います。音楽は休みなく進行し、クライマックスでは激しい感情が爆発します。

第5曲：Im Anfange ruhiges, im Verlauf bewegtes Tempo (始めは静かに、それから動きのあるテンポで、ニ長調)

終曲は、第1曲と似た性格と響きを持ちます。薄いテクスチュアから、より速い16分音符の伴奏が立ち上がります。最後は強いカデンツを欠き、この謎めいた曲は曖昧ながらも美しい終結を迎えます。


この作品は、シューマンの晩年の精神的な苦悩と、それにもかかわらず音楽への情熱を失わなかった彼の姿を映し出していると言えるでしょう。

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