暎嬪李氏

暎嬪 李氏

李氏朝鮮王朝第21代国王である英祖の側室であり、歴史上特に悲劇的な最期を遂げた荘献世子の生母として知られる人物です。また、朝鮮王朝復興の英主と称される第22代国王、正祖の実祖母にあたります。その生涯は、国王の寵愛を受けて側室の最高位にまで昇りつめながらも、唯一成人した息子を巡る苦悩と悲劇によって色濃く彩られました。

生涯

暎嬪 李氏は、1696年8月15日、贈賛成の李楡蕃の娘としてこの世に生を受けました。幼くして宮廷に入り、当初は女官として仕えていましたが、成長して国王英祖の目に留まり、その寵愛を得るようになります。1726年には、国王の側室としての身分である淑儀に封じられました。

翌1727年には英祖との間に長女である和平翁主をもうけると、これを契機に側室の身分をさらに上げ、貴人に昇格します。その後も順調に昇進を重ね、やがて側室の最高位である嬪（ピン）の地位に就きました。

嬪となってからも子女を多く出産し、1727年から1738年までの約11年間に、和平翁主、和協翁主、そして後に世子となる荘献世子を含む合計7人の子供を産みました。しかし、不幸なことに、末娘の和緩翁主を除く6人の子女は、みな幼くして病などでこの世を去っています。中でも長女の和平翁主に対する英祖の寵愛は大変深く、暎嬪自身もまたこの娘を深く愛したとされます。しかし、その愛娘和平翁主は1748年にわずか22歳で若くしてこの世を去ります。暎嬪の悲しみは計り知れないほど深かったといわれています。

暎嬪の人生における最大の悲劇は、唯一成人まで育った息子である荘献世子を巡るものでした。父である英祖と息子である荘献世子の間には、次第に深い確執と葛藤が生じるようになり、世子は精神的に不安定な状態に陥っていきました。さらに、世子は周囲の女官や宦官を理由なく殺害するなど、常軌を逸した行動を繰り返すようになり、母である暎嬪もまたこの息子の奇行に深く心を痛め、苦悩しました。

1762年、当時の政権を掌握していた老論派が荘献世子への非難を公然と強める中、窮地に追い込まれた暎嬪は、ついに苦渋の決断を下します。母として息子の将来を案じ、また宮廷内の混乱を収拾するためだったともいわれますが、自らの口から英祖に対し、息子の常軌を逸した行状を全て伝え、その処刑を願い出たのです。

母の進言も影響し、同年、荘献世子は父である英祖の命令により、米櫃（貯米用の櫃）に閉じ込められるという凄惨な方法で餓死させられました。これが歴史に名高い「壬午士禍（じんごしか）」と呼ばれる事件です。

最愛の息子を自身の進言によって失った暎嬪の悲しみと、抱えたであろう呵責は想像に余りあります。息子を失った悲劇からわずか2年後の1764年8月23日、暎嬪 李氏は病を得て68年の生涯に幕を閉じました。

家族

父: 贈賛成 李楡蕃
母: 漢陽金氏
夫: 英祖（李氏朝鮮第21代国王）
子女:
和平翁主（1727年 - 1748年）：朴明源に嫁ぐ
和協翁主（1733年 - 1752年）：申光綏に嫁ぐ
荘献世子（思悼世子）（1735年 - 1762年）：正祖の実父、死後「荘祖」として追尊される
和緩翁主（1738年 - 1808年）：鄭致達に嫁ぐ
その他、夭折した3人の翁主
孫: 正祖（1752年 - 1800年）：荘献世子の息子

登場作品

暎嬪 李氏の波乱に満ちた生涯、特に息子荘献世子との関係や壬午士禍における役割は、後世の歴史ドラマや映画の題材となることも多く、様々な俳優によって演じられています。

テレビドラマ: 「大王の道」（1998年 MBC）、「赤い月」（2015年 KBS）、「赤い袖先」（2021年 MBC）など
映画: 「王の運命 -歴史を変えた八日間-」（2015年）など

関連項目

英祖
荘献世子（思悼世子）
正祖
壬午士禍

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