曲師

曲師（きょくし）について

曲師は、浪曲において重要な役割を担う三味線奏者を指します。彼らは演奏中に浪曲師（太夫）に寄り添い、その呼吸を読むことで、効果的な演奏を行います。曲師は通常、観客から見て右手側に位置し、正面ではなく浪曲師の方に向いて演奏します。使用される三味線は主に太棹三味線であり、調弦は三下がりのスタイルが一般的です。

曲師の最大の魅力はその即興性です。譜面を使用せずに演奏を行うため、表現は非常に自由で、浪曲師の演技と絶妙な連携を保ちながら、その場の雰囲気に合わせた演奏が求められます。したがって、最適なタイミングで合いの手を入れることや、独自の効果音を創り出すことが曲師の技量を示す重要な要素となります。特に、演奏においては「手」を入れるという言葉が使われることがあります。これは、浪曲師との呼応を強調していると言えるでしょう。

また、曲師は特定の技術や特技を定めた譜面を持たず、師匠から弟子へと口伝えや手本を通じて技術を伝承します。このように、三味線音楽の中で譜面無しでの伝承は浪曲が唯一の存在であり、日本の伝統的な音楽シーンにおいて特異なスタイルであると言えます。

演奏者の運営スタイルには「影弾き」と「出弾き」というものがあり、影弾きは衝立の後ろにいる形で客の視界には入らずに演奏を行います。一方で出弾きは衝立の前で客に見える形で演奏します。近年では、正式な舞台においても出弾きのスタイルが増えてきています。この衝立を使ったスタイルの起源には、明治時代の曲師である桃中軒雲右衛門が美しい妻を観客から隠すために取り入れたとの説がありますが、これについては確証がありません。

曲師のスタイルには、地域による特色も存在し、関東節と関西節に大別することができます。関東節では、三味線の胴がしっかりと張られており、弾くと高い音色が出るのが特徴です。一方、関西節では、胴がやや緩めに張られ、低い音色が特徴として知られています。このような音色の違いは、浪曲師の歌い回しにも影響を与えます。

曲師として現在活躍している人物には、伊丹秀敏、岡本貞子、沢村豊子などがいます。また、玉川祐子は、2022年に100歳を迎えたにもかかわらず、いまだに現役での活動を続けています。これは曲師に明確な定年がないことを示しており、年齢を問わず活動できる職業というのも魅力のひとつです。

過去には戸川花助や木村友香など、多くの曲師が名を馳せました。彼らはその技を駆使して、浪曲文化の発展に貢献しました。

曲師の演奏技術は、観る人々に深い感動をもたらす芸術であり、今後も伝統を受け継ぎながら発展し続けていくことが期待されます。

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