書斎の聖ヒエロニムス (デューラー、1521年)

『書斎の聖ヒエロニムス』は、ドイツルネサンスの巨匠アルブレヒト・デューラーが板に油彩で描いた作品です。1520年から1521年にかけてネーデルラントに滞在した際、デューラーは聖ヒエロニムスを主題とするこの作品を制作しました。この時、デューラーは地元の老人をモデルとして用いたとされています。ウィーンのアルベルティーナには、この作品の準備素描が残されており、その素描にはモデルとなった男性の年齢（93歳）が書き込まれています。この作品は、1521年3月にネーデルラントのポルトガル貿易使節団の団長であるロドリゴ・フェルナンデス・デ・アルマダに贈呈されました。その後、作品はアルマダ家のコレクションに保管され、1880年に現在の所蔵先であるリスボンの国立古美術館に寄贈されました。

デューラーは以前にも「書斎の聖ヒエロニムス」を題材とした作品を制作しており、1511年には木版画、1514年には銅版画を発表しています。これらの先行作品では、部屋の情景が広い視野で捉えられ、聖人の全身像が描かれていました。しかし、本作では聖人の姿が半身像として大きくクローズアップされています。この表現は、デューラーがネーデルラントで親交を深めた初期フランドル派の画家クエンティン・マサイスの同主題の作品や肖像画から影響を受けたと見られています。

本作では、衣服、老人の肌、手前の髑髏、インク壺、書見台、そして左上の十字架など、細部に至るまで緻密な描写が施されています。デューラー自身が日記に「丹念に描いた」と記しているように、その材質感の表現は初期フランドル派美術に引けを取りません。デューラーがイタリアでイタリアの絵画に対抗しようとしたように、ネーデルラントではネーデルラントの絵画に対抗しようとする意欲が感じられます。本作の複製がネーデルラントに多数（25～40点とも言われる）残されていることから、当時、この作品が現地でどのように受け入れられたかを推測することができます。

デューラーが聖ヒエロニムスを描いた作品の中で、本作は肖像画に近い形式をとっており、詳細な研究の余地はあまり残されていません（聖人が背景の小さな人物となっているデューラーの1514年の銅版画などは数少ない例です）。モデルの老人は、カールした白みがかった黄色の顎鬚など、細部にまでこだわって描かれています。また、銅版画とは異なり、頭蓋骨の上に置かれた指は「メメント・モリ（死を思え）」を意味しており、死という重要なテーマが示唆されています。鑑賞者を見つめる老人の視線は、死について深く瞑想している様子を伝えています。

この作品は、デューラーの卓越した技術と、初期フランドル派の美術からの影響が融合した、傑作の一つと言えるでしょう。

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