書面による準備手続

書面による準備手続

「書面による準備手続（しょめんによるじゅんびてつづき）」は、日本の民事訴訟において、裁判の初期段階で審理の対象となる争点や提出すべき証拠を効率的に整理するために設けられた手続きの一つです。

この手続きの大きな特徴は、当事者やその訴訟代理人が、裁判所に出頭することなく、自宅や法律事務所など各自の場所から、インターネット等の通信回線を用いて裁判官と協議を行い、準備書面を交換して手続きを進める点にあります。

主な目的は、口頭弁論期日における審理を円滑かつ集中的に進めるため、当事者間で争いのある事実や法律上の主張を明確にし、それらを裏付ける証拠を絞り込むことにあります。当事者は、自己の主張やそれに対する反論、および証拠について記した準備書面を裁判所に提出し、通信による協議を通じて論点を整理していきます。

本手続きは、当事者や代理人が裁判所所在地から遠隔地に居住している場合や、高齢、病気、身体的な障害などの理由により裁判所への出頭が困難な場合に、審理を停滞させることなく進行させるための代替手段として有効に活用されています。物理的な移動が不要となるため、当事者の負担軽減に繋がります。

一方で、通信による非対面での手続きとなるため、裁判官や相手方当事者が、画面越しでは当事者や代理人の表情や細かな仕草などから真意や心情を十分に読み取りにくいという側面があります。対面での手続きと比べて、コミュニケーションの質が異なる可能性がある点は考慮が必要です。

この非対面という特性を踏まえ、運用上の配慮もなされています。例えば、多くの事件を取り扱い、比較的若手の裁判官が担当することも多い地方裁判所においては、重要な争点整理手続きである書面による準備手続は、経験豊富な裁判長が主宰することが原則とされています。これは、手続きの適正かつ円滑な進行を確保するための措置と考えられます。

これに対し、高等裁判所において書面による準備手続が行われる場合には、その事件を担当する合議体の裁判官の中から指定された特定の受命裁判官が手続きを主宰することが一般的です。

本手続きの根幹となるのは、当事者双方による準備書面の提出と交換です。これらの書面に基づいて通信による協議が行われ、争点と証拠方法の整理が進められます。

書面による準備手続を通じて争点と証拠方法の整理が完了した後、その後に開かれる口頭弁論期日において、それまで手続きの中で主張・整理されていなかった全く新たな主張や証拠の申出を行おうとする場合には、なぜその主張等がこの時点でなされるのかについて、裁判所に対し十分な説明を行うことが義務付けられています。これは、一度整理された争点に基づき、効率的に審理を進行させるためのルールです。

このように、書面による準備手続は、情報通信技術を利用することで、場所や身体的制約に縛られにくい、現代的な民事訴訟の争点整理手法の一つと言えます。他の争点整理手続きである準備的口頭弁論や弁論準備手続と並び、裁判の迅速化・効率化に寄与する制度です。

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