月と手袋

月と手袋

『月と手袋』は、江戸川乱歩によって1955年に発表された短編の探偵小説です。この作品は特に明智小五郎が登場する作品の一つとして知られており、倒叙形式と呼ばれる独特なストーリー進行を特徴としています。

あらすじ

物語の中心となるのは、高利貸しであり元男爵でもある股野重郎です。彼は金を借りた芸能人の弱みを握り、自らの利益を追求しています。そして、かつて少女歌劇団で男役として舞台に立っていた元女優のあけみと結婚しています。一方で、シナリオライターの北村克彦は、あけみとの情事を持ち、その関係が次第に股野の知るところとなります。

ある日、北村は股野から呼び出され、自身とあけみが今後会わないようにとの警告を受けます。さらに、股野は法外な慰謝料を請求すると共に、あけみに対する制裁をほのめかし、ことは次第に危険な方向へと進展します。北村はこの状況に耐えられず、股野を殺してしまいます。この殺人後、彼はいかにして自らの罪を隠すかを考え、巧妙な偽装工作を決意します。

偽装工作とその後

北村の計画は、あけみを強盗の被害者として仕立て上げることです。彼はあけみに指示し、彼女が衣装箪笥の中に入り、自分自身を縛る形で強盗に襲われたように見せかけることにします。北村はパトロール中の警察官の注意を引き、逃げる隙を作ることで、警察の捜査を撹乱させます。この計画が見事に成功し、警察は捜査を行き詰まらせてしまいます。

その後、北村は股野の残した財産を利用して、あけみとともに贅沢な生活を始めます。しかし、やがて彼らのもとに警視庁の花田警部が訪れるようになり、北村たちと親しい関係を築いていきます。花田は初めは友人のように接しますが、次第に北村の行動に疑念を抱く様子を見せるようになります。

登場人物

• - 北村 克彦（きたむら かつひこ）: 35歳のシナリオライター。あけみと不倫の関係にある。
• - 股野 あけみ（またの あけみ）: 元女優であり重郎の妻。北村と恋に落ちる。
• - 股野 重郎（またの しげお）: 42歳の高利貸しで元男爵。芸能界に強い影響力を持つ。
• - 花田警部（はなだ）: 警視庁の警部で、明智小五郎とも面識を持つ。
• - 明智 小五郎（あけち こごろう）: 有名な名探偵で、警視庁捜査一課に助言する。

収録作品

『月と手袋』は、以下の文庫に収録されています。

• - 角川文庫 『三角館の恐怖』 (1974年1月)
• - 光文社文庫 『江戸川乱歩全集第18巻 月と手袋』 (2004年)
• - 集英社文庫 『明智小五郎事件簿 戦後編II「化人幻戯」「月と手袋」』 (2022年1月)

この作品は、単なる探偵小説の境界を超え、人間の欲望や裏切り、そして心理的緊張が描かれた深みのある内容です。

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