月に吠える (萩原朔太郎の詩集)

『月に吠える』の概要

『月に吠える』は、詩人萩原朔太郎による初の詩集で、1917年に出版されました。この詩集は54編の詩を収めており、序文は北原白秋が、跋文は室生犀星が書いています。朔太郎はこの作品を通じて、新しい口語象徴詩を切り拓き、独特の感性を表現しました。

作品の背景

日本における詩の発展は、ヨーロッパの影響を受け、次第に文語体から口語体へと移行していきました。これにより、詩のあり方が変わり、より自由な表現が求められるようになりました。1907年に川路柳虹が発表した「塵塚」は、その最初の口語自由詩の成功例とされ、続いて北原白秋や三木露風らが詩壇を形成しました。朔太郎も白秋の主宰する雑誌『朱欒（ザンボア）』を通じて室生犀星と交流し、彼の影響を受けながら詩作を始めました。

朔太郎ははじめ、白秋や犀星、さらに山村暮鳥の影響を受けた詩を書いていましたが、『月に吠える』の出版をもって、自らのスタイルを確立しました。この詩集は、1916年の秋から出版計画が始まり、朔太郎は鎌倉の宿に長期間滞在しながら編集作業を進めました。

出版の過程

『月に吠える』が完成し、1917年の元日に出版される予定でしたが、朔太郎は東京で泥酔して原稿を紛失してしまいます。下書きが残っていたため、再度原稿を書き直し、犀星にも跋文を依頼しました。この際、犀星は「再度書けるものではない」と感じていたことを明かしています。最終的に、詩集は1917年2月15日に500部出版されましたが、うち200部は寄贈用に充てられたため、実際には300部程度が販売されました。

出版後、内務省から収録詩の「愛憐」の削除命令が出るなどのトラブルもありましたが、作品はすぐに人気を博し、滞りなく流通することができました。特に高評価を得たことから、再版の希望が寄せられ、1922年に再版が実現しました。この版では削除された詩も収録され、内容も充実しています。

評価と影響

『月に吠える』は発表された直後から高評価に包まれ、高村光太郎や山村暮鳥などからも絶賛されました。北原白秋も装幀の美しさに触れ、田中恭吉の才能を称賛しました。この詩集は、朔太郎がオスカー・ワイルドの影響を受け、独特な装丁と挿画を施すことで、視覚的な美しさも同時に追求した結果でした。

一方で、朔太郎は三木露風らの観念的象徴主義に対抗し、攻撃的な評論を発表することで互いの立場を鮮明にしました。彼の作品は詩壇での価値観の転換を促し、後の詩の発展に多大な影響を与えました。

総括

『月に吠える』は、朔太郎の詩人としての出発点であり、彼の独自の感性と詩風を確立した重要な作品です。その後も多くの詩人たちに影響を与え続け、文学史における重要な一ページを刻むこととなりました。

もう一度検索