月澹荘綺譚

『月澹荘綺譚』

概要

『月澹荘綺譚』（げったんそうきたん）は、三島由紀夫による短編小説で、彼が手がけた怪談系統の一作品と見なされています。物語は、伊豆半島南端の岬にあるかつての別荘「月澹荘」を舞台にした40年前の出来事を描いています。この作品は、1965年に雑誌『文藝春秋』で発表され、その後単行本『三熊野詣』に収録されました。また、文庫版や2000年の再掲載も行われており、広く読まれています。

執筆背景

三島由紀夫は本作において、自身の視覚的感受性について語っています。彼は「目だけの人間になるのは死んでも嫌だ」と述べ、登場人物が持つ「視覚型の人間」への嫌悪感を示しています。これにより、彼の持つ独特の視点が物語にも反映されているといえるでしょう。

あらすじ

物語は、主人公「私」が伊豆半島の下田に滞在中に過去の話を聞くところから始まります。老人の勝造は、かつての別荘番であり、大澤照久侯爵の嫡男・照茂と幼馴染でした。照茂は20歳で結婚し、新婚旅行で月澹荘を訪れますが、翌年に火事で焼失してしまいます。夫人は照茂の死を受け止められず、不明な出火原因や夫の死の背景に疑念を抱きながら、勝造に話を求めます。

勝造が語るのは、照茂と彼の友人である勝造が共に過ごした夏の出来事です。19歳の照茂は、白痴の娘・君江に目をつけ、勝造に残酷な命令を下しました。勝造は、不本意ながら君江を襲い、そのときの照茂の冷酷な視線は忘れがたいものでした。この出来事は、二人の人間関係に深い傷を残すことになります。

その後、数年後の夏、照茂は月澹荘を訪れ、スケッチに出かけた際、崖から転落して亡くなります。勝造は照茂の無惨な死を見て、君江の仕業だと直感します。その後、彼の目には、君江が照茂の死を恨み続けた理由が見えてくるのです。物語は、見つめる目の恐ろしさと愛の不能を探求し、人間の心理の奥深さを描出しています。

登場人物

• - 私: 物語の語り手。歴史や漢詩に造詣が深く、月澹荘を探し求める。
• - 照茂: 大澤侯爵の嫡男で、感情を表に出さない冷静さを持つ。
• - 勝造: 照茂の幼友達で、彼の命令に忠実な一面を持つ。
• - 若夫人: 照茂の美しい妻。
• - 君江: 白痴の娘で、平和な性格を持つ。

評価・解釈

『月澹荘綺譚』は、批評家たちに賛否の声を呼び起こしています。否定的な意見もあれば、特に磯田光一や渡辺広士は、作品の独特なテーマや美しさを称賛しています。特に、見つめる目と愛の未達成というテーマが、多層的に新たな解釈を生んでいます。

テレビドラマ化

1990年にはこの作品がテレビドラマ化され、サスペンスとして新たな形で再構築されました。

おわりに

『月澹荘綺譚』は、三島由紀夫の独自の視点から描かれた深遠な人間関係と過去の影を探求する物語であり、日本文学における重要な作品の一つです。独特の雰囲気を持つ本作は、読み手に深い印象を残します。

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