有栖川流

有栖川流は、日本の書道における重要な流派の一つです。その起源は、江戸時代中期にまで遡ります。霊元天皇から宸翰様（天皇直筆の書）を伝授された有栖川宮家の第五代当主、職仁親王（霊元天皇の第17皇子）が、その書風に典麗優美な工夫を凝らし、独自の流派として確立しました。

有栖川流の特徴は、その優雅で洗練された筆致にあります。書は、単なる文字の記録ではなく、書き手の内面を映し出す鏡であるという考えに基づき、一筆一筆に精神性が込められています。

特に、有栖川宮家の第八代当主である幟仁親王と第九代当主である熾仁親王は、明治天皇と昭憲皇太后の書道師範を務め、皇室の書道教育に大きな影響を与えました。また、幟仁親王は、明治維新の基本方針を示した五箇条の御誓文の正本を筆写したことでも知られています。

明治時代以降、有栖川流は、幟仁親王から、次男である威仁親王の妃・慰子、さらにその次女である実枝子女王へと受け継がれました。実枝子の娘である徳川喜久子は、有栖川宮家の血を引くだけでなく、同家の祭祀を継承する宣仁親王との婚約が予定されていたため、15歳頃から母である実枝子から本格的に有栖川流を学び始めました。実枝子は、娘の喜久子が有栖川流以外の書風に影響されることを懸念し、女子学習院に働きかけて、他の流派を学ばせないようにしたという逸話が残っています。

1930年（昭和5年）に喜久子は高松宮宣仁親王と結婚しました。その後、喜久子は母である実枝子の逝去後、有栖川宮家に伝わる古筆を手本に独学で研鑽を重ねました。昭和中期には、香淳皇后の勧めにより、常陸宮妃華子に有栖川流を指導するようになり、華子妃から送られてくる和歌の短冊を添削するようになりました。

さらに昭和後期には、秋篠宮文仁親王が、父である皇太子明仁親王（当時）を通じて、宣仁親王のような字を書きたいと希望し、宣仁親王が喜久子妃に習わせるように指示したことで、文仁親王への和歌の添削も行うようになりました。文仁親王は、手本にはない文字を歌に詠み込むこともあり、喜久子妃は、様々な字から偏や旁を探して工夫を凝らしていたと言われています。

有栖川流で使用する筆は、中に紙芯を入れた特製のものが使われました。平成初期以前は、滋賀県の藤野雲平氏（雲平筆）と東京都の勝木平造氏がその制作を担っていました。

現在、有栖川流の書は、國學院大學博物館に展示されており、その優美な書風を間近に見ることができます。有栖川流の歴史や詳細については、高松宮妃喜久子著の『菊と葵のものがたり』に詳しく記されており、興味のある方は、ぜひ参考文献としてお読みいただきたいと思います。

有栖川流は、日本の書道文化において、重要な位置を占める流派であり、その伝統は、現代においても継承され続けています。その優美な書風は、多くの人々に愛され、日本の文化遺産として、その価値は非常に高いと言えるでしょう。

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