有機農産物

有機農産物とは

有機農産物とは、化学的に合成された肥料や農薬の使用を避け、環境への負荷を低減する有機栽培によって生産された農産物のことです。有機畜産物や有機加工食品と並び、有機食品の一種として扱われます。しかし、その定義や認証基準は、国や地域によって異なり、国際的な共通認識はありません。

各国の定義

日本農林規格（JAS）

日本では、2000年4月1日から日本農林規格（JAS）によって有機農産物の規格が定められています。有機JASマークが付与された農産物のみが「有機」や「オーガニック」と表示でき、消費者はこのマークを目安に有機農産物を選ぶことができます。

JAS規格では、有機農産物は、播種または植付け前2年以上（多年生作物では最初の収穫前3年前）の間、堆肥などによる土づくりを行った圃場で、化学合成肥料や農薬を避けて栽培されたものと定義されています。

日本有機農業研究会

一方、日本有機農業研究会は、有機農産物を「生産から消費までの過程を通じて化学肥料・農薬等の合成化学物質や生物薬剤、放射性物質、（遺伝子組換え種子及び生産物等）をまったく使用せず、その地域の資源をできるだけ活用し、自然が本来有する生産力を尊重した方法で生産されたもの」と定義しています。

中国の緑色食品と有機農産物

中国では、1990年に緑色食品制度が導入され、1993年に国際有機農業運動連盟（IFOAM）に加盟したことで、有機食品に相当するAA級が新設されました。AA級は国際認証であり、通常の緑色食品（A級）とは区別されます。

CODEXのオーガニック規格

国際的な食品規格を設定するCODEXでは、「オーガニック」に関する規格を設け、検査に合格した商品にはオーガニック表示を許可しています。これにより、国際的な取引における有機農産物の基準が整備されつつあります。

品質

有機農産物の品質については、慣行農産物との比較研究が数多く行われています。栄養価、保存性、安全性、味、外観などの側面から検証されています。

栄養価

栄養価に関する研究では、有機農産物と慣行農産物の間に明確な差がないという見解や、有機農産物の方が抗酸化物質や栄養素を多く含むという報告があります。

例えば、有機栽培のホウレンソウは糖度が高い傾向にある一方、ビタミンC含量に大きな差はないとされています。また、有機農産物は抗酸化物質を多く含み、脂質が少ない傾向があるとの研究結果もあります。

2006年のスイスの大規模調査では、有機農産物はフィトケミカルやビタミンCが豊富で、硝酸のような不要な物質が少ないことが報告されています。さらに、有機農産物の保存性も高いという結果が出ています。

保存性

保存性に関する研究では、有機栽培のホウレンソウは慣行栽培のものよりも、収穫後のビタミンCの減少が少ないと報告されています。これにより、有機農産物は鮮度をより長く保てると考えられます。

安全性

有機農産物は、一般的に「安全性が高い」と認識されています。これは、有機農法が農薬の使用を避けるため、農薬への暴露を回避できるという認識があるからです。実際に、有機農産物を日常的に摂取する子供たちのグループでは、農薬の暴露量が少ないという研究結果があります。

しかし、東京都で行われた調査では、有機農産物と慣行農産物の農薬残留検出率に大きな差はなかったという報告もあります。このため、農薬残留検査だけでは、有機農産物であることを証明することは難しいのが現状です。

味

味に関する研究では、有機農産物と慣行農産物の間に差があるとする報告と、差がないとする報告の両方が存在します。

例えば、トマトでは、有機栽培の方が香りが高く、味の総合評価が高いという報告がある一方、差がないとする研究もあります。

ホウレンソウでは、有機栽培の方が食味が高いと評価される場合や、露地栽培のものがハウス栽培のものより評価が高いという研究結果があります。

外観

外観に関する研究では、有機栽培のホウレンソウや葉ネギは、慣行栽培のものよりも葉の色が良いという結果があります。一方で、トマトの色については、差があるとする報告と、差がないとする報告があります。

有機農産物の外観は、栽培方法や肥料の種類、作物の種類によって異なるため、一概に優れているとは言えません。

認証に関わる問題

有機JAS規格は、有機農産物であることを証明する唯一の公的な基準です。しかし、認証を受けるためには、農場や設備の整備、手続きに多額の費用がかかるため、多くの生産者にとって負担となっています。

その結果、認証を受けずに「有機栽培」と表示して販売する生産者も存在します。これらの生産者は、独自の基準を設けていることもありますが、第三者機関の認証がないため、消費者は注意が必要です。

また、有機JAS規格には、有機の種や苗を使用することが原則とされているものの、入手困難な場合はその限りではないという矛盾も指摘されています。

まとめ

有機農産物は、環境への負荷を低減する農法で栽培された農産物であり、その品質、安全性、味、外観については様々な研究が行われています。

有機農産物を購入する際には、JASマークなどの認証マークを確認し、信頼できる生産者から購入することが重要です。また、有機農産物に関する情報を多角的に収集し、正しい知識に基づいて選択することが望ましいと言えるでしょう。

もう一度検索