有沢賢持

有沢 賢持（ありさわ けんじ）氏は、1950年7月27日に北海道新冠郡新冠町で生を受けた元プロ野球選手です。投手としてマウンドに立ち、その波乱に満ちた野球人生は多岐にわたる経験に彩られています。

高校時代は北日本学院大高でエース兼4番打者として活躍。3年次の1968年には夏の甲子園に出場しました。1回戦では強豪校を相手に完封勝利を収めるも、続く2回戦で惜しくも敗退。高校卒業後、1969年に社会人野球の大昭和製紙北海道に入社しますが、チームへの適応に苦慮し、1973年には日産サニー札幌へ移籍します。当時、日産サニー札幌の野球部は、当初は守備の未熟な弱体チームでしたが、有沢氏は早朝からの練習と営業活動、そして午後のチーム練習という過酷な日々を送ります。時には1ヶ月に数十台もの車を売り上げるなど、仕事と野球を見事に両立させました。彼の献身的な努力もあり、チームは驚異的な成長を遂げ、北海道の強豪チームとも互角に戦えるほどになります。この社会人時代には、電電北海道やたくぎんの補強選手として都市対抗野球大会に複数回出場。1976年の大会では救援投手としてチームの快進撃を支え、準決勝で勝利投手となります。決勝では惜しくも敗れ、チームは準優勝となりましたが、彼の名はアマチュア球界で広く知られることとなりました。

1978年、28歳にしてプロ野球ドラフト会議でヤクルトスワローズから3位指名を受け入団。スリークォーターから繰り出すストレートに加え、カーブ、シュート、スライダー、チェンジアップ、シンカーと多彩な変化球を操ることから、リリーフ投手としての活躍が期待されました。入団当時の有沢氏は結婚3年目で、10ヶ月になる長男を抱えており、プロ入り後の将来を見据えて契約金の大部分を定期預金に回すなど、堅実な一面も見せました。しかし、前年リーグ優勝を果たしたヤクルトはチーム内に張り詰めた空気が漂っており、過酷なキャンプ練習の中でプロのレベルの高さを痛感。エース級投手との差に自信を大きく揺るがされ、プロの厳しさを味わうことになります。

プロでの登板機会を得られないまま、有沢氏は1982年から打撃投手への転身を決断します。これは彼にとってキャリアにおける大きな転換点となりました。打者を打ち取るのではなく、打たせるという役割の変化に最初は戸惑いましたが、彼はこの新たな仕事に独自のやりがいを見出していきます。試合開始前の打撃練習で200球近くを投げた後、試合中はネット裏でビデオカメラを手に、両チームの投手と打者のフォームを克明に記録しました。試合終了後には撮影したビデオを繰り返し再生し、打者の癖や弱点、投球フォームのわずかな仕草から球種を割り出すなど、徹底的な分析を行いました。その分析結果は大学ノートに詳細に書き留められ、後に打球方向を色分けした個人別カードも作成。この分析から、一流打者にも意外な弱点があることを発見するなど、野球の奥深さに改めて触れ、仕事への興味とやりがいが一気に高まったといいます。彼の detailedな分析はコーチや選手からも信頼され、スランプに悩む選手が相談に来ることも増えました。

打撃投手としてチームに貢献していた有沢氏ですが、1984年、チームの左投手不足と中継ぎ不足を補うため、異例の現役復帰を果たします。33歳でのプロ初登板は大きな話題となりました。復帰のきっかけは、遠征からの帰りのバスの中で当時の土橋正幸監督から突然「現役に戻れ」と告げられたという劇的なものでした。この年、22試合に登板。翌1985年にも23試合に登板しましたが、肘の故障もあり、かつてのような活躍は叶いませんでした。同年限りで2度目の戦力外通告を受け、現役を引退しました。

プロ野球引退後は、北海道ヤクルトで営業マンとして新たな道を歩み始めました。また、2007年から2008年にかけては、プロ野球マスターズリーグの札幌アンビシャスに投手として参加し、再びマウンドに上がる機会も得ました。高校球児として甲子園のマウンドを踏み、社会人野球でチームを牽引し都市対抗準優勝の立役者となり、プロ入り後は打撃投手として相手打者の分析に情熱を傾け、そして異例の現役復帰を果たすなど、有沢賢持氏は野球人生を通じて様々な役割を経験し、その都度、真摯に野球と向き合い続けた人物です。

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