有田鉄道線

有田鉄道線：蜜柑列車とローカル線の終焉

和歌山県有田郡に存在した有田鉄道線は、1915年の開業から2002年の廃止まで、地域住民の足として、そして農産物の輸送路として重要な役割を果たしたローカル線でした。その歴史と、廃線に至るまでの経緯、そして現在に残る遺産について詳しく見ていきましょう。

開業から最盛期へ

有田鉄道は、沿線で収穫された木材や有田みかんといった農産物を、湯浅港へ輸送することを目的として1913年に設立されました。1915年には海岸駅～下津野駅間が開業し、翌年には下津野駅～金屋口駅間が開通。その後、1926年には紀勢西線（現在の紀勢本線）が藤並駅まで延伸、有田鉄道も藤並駅を新設して接続しました。これにより、有田みかんを満載した「蜜柑列車」が国鉄線を通じて全国へ出荷されるようになり、有田鉄道は大きな発展を遂げます。

旅客輸送においても、沿線にある井ノ口大師への参詣客の利用が多く、特に8月の祭事期間中には、列車が満員となるほどの盛況ぶりでした。しかし、1935年にはタブレット閉塞の省略による正面衝突事故が発生し、多数の死傷者を出してしまうという大きな悲劇に見舞われました。

1927年には紀勢西線が紀伊湯浅駅まで延伸。これにより、有田鉄道の海岸駅～湯浅駅～藤並駅間は並行路線となり、1944年には休止、レールが撤去されました。その後、1950年から紀勢西線の湯浅駅まで乗り入れるようになり、1959年には藤並駅～海岸駅間が正式に廃止されました。廃止された線路の一部は、後に紀勢本線の複線化に転用されています。

衰退と廃止

高度経済成長期以降、トラック輸送の普及により、みかん等の貨物輸送はトラックにシフトしていき、1984年には貨物営業が廃止されました。これは有田鉄道にとって大きな打撃となり、人員削減や車両保守の委託など、合理化を進める必要に迫られました。さらに1992年には紀勢本線への乗り入れも廃止。利用者は沿線の和歌山県立吉備高等学校（現・和歌山県立有田中央高等学校）の通学生が中心となり、次第に利用者は減少していきました。

末期には、運行本数が激減し、駅舎や軌道は老朽化が著しく、安全面にも不安が残る状態でした。このような状況の中、2001年には運行本数が1日2往復にまで減少し、「最も運行本数の少ない私鉄路線」として鉄道ファンに知られるようになりました。最終的には1日平均29人の利用者となり、2002年12月31日をもって廃止されました。地元からの反対意見はほとんどありませんでした。廃止後も、藤並駅周辺の線路や施設は撤去費用が出ずに放置され、朽ち果てる状態がしばらく続きました。

廃止後の状況と遺産

廃線跡は、一部が撤去・舗装され、2008年には自転車歩行者道路として整備されました。また、在籍車両であったハイモ180-101とキハ58003は、有田川町に譲渡され、2010年に開園した有田川町鉄道公園で動態保存されています。公園内では、これらの車両を見学したり、当時の様子を偲ぶことができます。

有田鉄道線の代替交通機関として、廃止前から運行していた有田鉄道バスの藤並線が引き続き運行されていますが、利用客は鉄道時代より減少しました。

車両について

有田鉄道で使用されていた車両は、時代の変遷とともに変化しました。初期は木製客車や改造車などが使われていましたが、その後、国鉄から譲渡されたキハ58形や、樽見鉄道から譲渡されたレールバスであるハイモ180形などが活躍しました。これらの車両は、現在では有田川町鉄道公園で保存され、当時の面影を伝えています。

まとめ

有田鉄道線は、地域の産業を支え、人々の生活に密着したローカル線でした。しかし、時代の変化とともに衰退し、最終的には廃止という道を選択することになりました。それでも、その歴史と遺産は、有田川町鉄道公園などで現在も受け継がれ、多くの人々に記憶されています。廃線跡の自転車道は、かつて鉄道が走っていた場所を偲ばせる、静かな散策路となっています。

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