有馬万里代

有馬 万里代（ありま まりよ、1928年2月22日 - ）は、日本の音楽界に大きな足跡を残したアルト歌手であり、教育者です。本名を有馬マリ子といいます。鹿児島県鹿児島市に生まれた彼女は、幼い頃から歌に強い関心を持ち、ラジオから流れるオペラ歌手、三浦環の歌声、特にプッチーニ作曲の歌劇「蝶々夫人」を熱心に聴いて育ちました。

1940年、鹿児島県立第二高等女学校（現在の鹿児島県立甲南高等学校）に進学。3年生の時、鹿児島師範学校で教鞭をとっていた田中義人に声楽の指導を仰ぐようになります。当時は夜遅くのレッスンであり、母親が付き添って通ったといいます。音楽への情熱を深めた有馬は、日本の音楽教育の最高峰であった東京音楽学校（現在の東京藝術大学）への進学を目指します。難関を突破して合格し、師範科でアルト歌手として著名な四家文子に師事。1948年に同校を卒業しました。

卒業後、同年すぐに鹿児島師範学校で教職に就き、後進の指導にあたります。翌年の学制改革により同校が新制鹿児島大学に包括された後は、鹿児島大学教育学部附属中学校および附属小学校の教諭を経て、1953年には鹿児島大学教育学部の講師に就任しました。教育者としてのキャリアを積み重ねる一方、自身の声楽技術の向上も怠らず、1954年には母校である東京藝術大学に国内留学し、再び師の四家文子の下で研鑽を積んでいます。この時期、彼女は五十嵐喜芳と並んで四家門下の優秀な学生として知られるようになりました。

1958年には、声楽研究グループ「シャンテ・ブリュー」を設立し、その主宰として地域の声楽活動の中心となります。1960年には鹿児島大学教育学部の助教授に昇任し、さらに1974年には教授となりました。大学での教育活動に加え、国際的な視野を広げるため、1965年から2年間イタリアのミラノ音楽院に留学。その後も1976年から2年間、文部省在外研究員として再度イタリアに渡り、本場の音楽に触れ、自己の芸術性を高めました。

有馬万里代の活動は、大学教育や個人の声楽研究グループにとどまりませんでした。1971年には、当時鹿児島短期大学教授であった野村三郎の呼びかけに応じ、鹿児島オペラ協会の設立準備に深く関与しました。設立当初、有馬は質の高い公演を実現できる人材が集まるまで待つべきだという慎重な姿勢を示しましたが、野村をはじめとする関係者の尽力により、演出家・栗山昌良といった国内一流の人材を招くことが可能となり、1973年2月に無事旗揚げ公演が行われました。その後、有馬は長年にわたり同協会の会長を務め、鹿児島におけるオペラ文化の定着と発展に貢献しました。

また、鹿児島混声合唱団の女性指揮者を長年務めるなど、合唱指導者としても活躍。大学教授としての教育活動、「シャンテ・ブリュー」での声楽研究、オペラ協会の運営、合唱指導といった多岐にわたる活動を通じて、鹿児島地域の音楽水準、特に声楽および合唱分野の振興に尽力しました。その功績は高く評価され、1977年には鹿児島県芸術文化奨励賞、1987年には南日本文化賞を受賞。1993年には文部省より地域文化功労者として表彰され、2008年11月には瑞宝中綬章を受章しています。

鹿児島大学名誉教授として、また地域の音楽文化を牽引するリーダーとして、有馬万里代は長年にわたり鹿児島の音楽界の発展に貢献し続けました。

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