朝倉橘広庭宮

朝倉橘広庭宮（あさくらのたちばなのひろにわのみや）とは

朝倉橘広庭宮は、飛鳥時代に斉明天皇が営んだ宮殿です。『日本書紀』によると、斉明天皇6年（660年）に百済が唐と新羅によって滅ぼされたことを受け、斉明天皇は百済復興のため、難波から娜大津（博多津）を経由して磐瀬行宮（いわせのかりみや）に入り、さらに翌年の斉明天皇7年（661年）5月9日に朝倉橘広庭宮へ移りました。

しかし、その地で斉明天皇は崩御。宮殿の建設には、朝倉社の木が使われたために神の怒りを買い、宮中では鬼火が目撃されたり、大舎人らに病死者が続出したりしたと伝えられています。別の説では、病死ではなく、筑紫君磐井の残党に討たれ、宮家を焼かれたとも言われています。

朝倉橘広庭宮の場所

朝倉橘広庭宮の正確な所在地は、現在も特定されていません。『日本書紀』には、いくつかの地名が登場しますが、その比定地は定まっていないのが現状です。

娜大津（なのおおつ）：博多津（現在の福岡県福岡市の博多湾）とする説が有力ですが、高知県高知市朝倉付近の旧地名とする説もあります。
磐瀬行宮（いわせのかりみや）：那の津の「官家（みやけ）」の地とされ、福岡県福岡市南区三宅、比恵遺跡（福岡市博多区）などが候補地として挙げられています。
* 朝倉橘広庭宮：地名から福岡県朝倉市とする説が有力ですが、考古学的な証拠は一切見つかっていません。福岡県朝倉市大字須川には奈良時代の寺院跡である長安寺廃寺跡があり、「橘廣庭宮之蹟」の碑が建てられていますが、これは朝倉橘広庭宮の時代とは合致しません。

また、福岡県田川郡川崎町大字安眞木字朝倉の近隣の神社や遺跡、高知県高知市朝倉にある朝倉神社も候補地として挙げられています。特に、川崎町の「アマギ」と「アサクラ」は古い地名である可能性が高く、朝倉橘広庭宮があった場所である可能性も指摘されています。

高知市朝倉の朝倉神社では、社伝により、朝倉橘広庭宮が同社にあたるとし、社殿背後にある「赤鬼山」が『日本書紀』に記述のある「鬼が天皇の喪の儀式を覗いていた山」であると伝えています。

黒木御所との関連性

鎌倉時代の『十訓抄』には、天智天皇が筑前国上座郡朝倉の山中に黒木の屋を造ったという記述があります。これを「木の丸殿」といい、丸木で造ったためそう呼ばれたとされています。この「木の丸殿」は、能楽作品『綾鼓』にも登場し、「筑前国朝倉宮」として描かれています。朝倉橘広庭宮と黒木御所との関連性は不明ですが、両者の場所が近いことや、朝倉という地名が共通していることから、何らかのつながりがあった可能性も考えられます。

朝倉橘広庭宮の謎

朝倉橘広庭宮は、斉明天皇の崩御という歴史的な出来事の舞台でありながら、その正確な場所や宮殿の姿は謎に包まれています。考古学的な調査でも明確な痕跡が見つかっていないことから、今後もさまざまな説が提唱されると考えられます。

まとめ

朝倉橘広庭宮は、飛鳥時代に斉明天皇が築いた宮殿であり、百済復興の拠点として重要な役割を果たしました。しかし、建設中に不吉な出来事が相次ぎ、斉明天皇が崩御した場所でもあります。その所在地は諸説あり、特定には至っていません。歴史の中に埋もれた謎多き宮殿として、今後も研究が進められることが期待されます。

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