十訓抄

『十訓抄』について

『十訓抄』は、鎌倉時代中期に編纂された教訓説話集であり、主に年少者を対象として、その教育を目的としています。この作品は、仏典「十善業道経」に基づいた十ヶ条の教訓を中心に展開されており、約280の説話を通じて古今東西の教訓が語られています。特に儒教的な思想が色濃く反映されており、その影響は後の教訓書に多大な影響を及ぼしました。

成立の背景

『十訓抄』の成立は、建長4年（1252年）とされていますが、編纂者については諸説あり、著名な儒者として知られた菅原為長の名前が挙げられています。また、特定の伝本に記された「六波羅二臈左衛門入道」という人物の関与を指摘する説も存在します。このように『十訓抄』は、多くの教訓が結集され、教えを広める役割を果たしています。

受容と影響

時代を超えて『十訓抄』に収められた説話は、後に作られたさまざまな説話集に多大な影響を与えました。例えば、『東斎随筆』などには本作品からの引用が見られ、また『古今著聞集』と重なる内容も多く、こうしたことから『古今著聞集』の編纂時にも利用されたと考えられています。

十訓の内容

『十訓抄』は、十の教訓を核とし、それぞれについて具体的な説話を呈示しています。これらの教訓は以下の通りです：

1. 人に恵を施すべき事
2. 傲慢を離れるべき事
3. 人倫を侮らざる事
4. 人の上を誡むべき事
5. 朋友を選ぶべき事
6. 忠直を存ずべき事
7. 思慮を専らにすべき事
8. 諸事を堪忍すべき事
9. 懇望を停むべき事
10. 才芸を庶幾すべき事

これらの教訓は、善行や人との関わりを深く考えるためのガイドラインを提供しており、各項目ごとに異なる量の説話が収められています。

伝本の種類

『十訓抄』には、いくつかの伝本が存在し、大まかに分けると四つの種類があります。一類本は平仮名で書かれ、一部が欠けているため、詳細な解説は難しいですが、他の伝本と照らし合わせながら研究が進められています。特に、泉基博によって発見された二類本が原形に近いとされ、注目を集めています。

現在の評価

『十訓抄』は、平安時代から鎌倉時代にかけての教訓哲学を後世に伝える重要な作品として評価されています。現行版としては、『新訂増補国史大系』や『新編日本古典文学全集』、さらには『十訓抄』自体を扱った岩波文庫など、さまざまな版が存在し、多くの人々がこの古典に触れています。

このように、『十訓抄』は時代を超えた教訓集として、私たちに多くの学びを与えてくれる貴重な資料となっています。

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