朝霧裕

朝霧 裕（あさぎり ゆう）

朝霧裕（あさぎり ゆう、1979年2月28日生まれ）は、埼玉県比企郡滑川町出身のシンガーソングライターであり作家です。彼女は、およそ10万人に一人の割合で発症するとされる稀な難病、ウエルドニッヒ・ホフマン症（脊髄性筋萎縮症）を抱えながら、音楽や執筆を通じてメッセージを発信し続けています。

この病気は、全身の筋肉が正常に発達せず、時間と共にその力が衰えていく進行性の疾患です。現在の医学では原因が特定されておらず、有効な治療法も見つかっていないため、国の特定疾患に指定されています。この難病を持つ歌手としては、朝霧裕氏が日本で初めてであり、かつ唯一の存在です。彼女の活動は、まだ公的なホームヘルパー制度や、介護・介助に関する法的な枠組みが十分に整っていなかった時代から、重い障害を持つ人々、特に女性が社会に参加することの重要性を示し、その可能性を広げる上で大きな役割を果たしてきました。

人物・来歴

朝霧氏のライブパフォーマンスが地元紙に「車いすの歌姫」として取り上げられたことを機に、その存在は広くメディアで知られるようになり、新聞やテレビでも話題となりました。これをきっかけに、ライブハウスだけでなく、全国各地の小中学校などでもコンサートを開催し、多くの人々と交流しています。私生活では、24時間体制のヘルパーによる丁寧なサポートを受けながら、自立した生活を営んでいます。自身の著書で「ひとりではベッドに寝た姿勢から首を起こす力がない」と記すほどの重度な障害がありながらも、多くの介助者、プロのミュージシャン、そして地域の人々との温かい絆の中で、豊かな日々を送っています。彼女の愛称は「だっこ」です。

2011年の東日本大震災以降は、自身が難病と共に生きる経験を通して得た視点から、障害、貧困、いじめ、差別など、様々な困難によって生きることに苦しさを感じている人々へ向け、「心の抑圧からの解放」を強く訴えかけています。このメッセージは、彼女の作品やステージ活動において一貫したテーマとなっています。また、彼女は「障害や難病があるから、これはできない」といった、日常生活や社会参加における困難、例えば生活、就学、就労、移動手段へのアクセスなどの問題について、その原因が本人の障害そのものだけにあるのではなく、社会の構造やあり方（社会モデル）によって引き起こされている重要な人権問題であるという考え方を、明確に提唱し続けています。

主な活動歴・受賞歴

朝霧氏は多岐にわたる活動を展開しています。

2003年から2018年まで、さいたま市ふれあい福祉基金のためのチャリティーコンサート「彩の国ゆめコンサート」の発起人を務めました。
2008年から2010年には、骨髄バンクへの支援を目的としたチャリティーコンサート「LIVE FOR LIFE音楽彩」に出演しています。
2010年には、漫画家たちばないさぎ氏により、彼女の半生を描いた漫画「命いっぱい、抱きしめて」が発表されました。
2011年には、出身地である滑川町の歴史ある古民家で自主企画公演を開催。この時期より、脱原発に関する市民活動への参加やSNSでの発言も積極的に行っています。
その後も、音と踊りを組み合わせた創作舞台や、スペシャルゲストに木村弓氏を迎えたチャリティーコンサートなどを企画・出演するなど、表現の場を広げています。2016年には熊本地震の被災地支援チャリティーコンサートも実施しています。

これらの活動と功績に対し、彼女は数々の賞を受賞しています。

2014年：第8回塙保己一賞奨励賞
2007年：日本青年会議所主催 青年版国民栄誉賞「人間力大賞・NHK賞」
1994年：第10回全国障害者ありのまま記録大賞詩部門大賞

作品

音楽、書籍、漫画など、幅広い分野で作品を発表しています。

CD

STAR TOUR
ファンシーグルーブ／名前で呼んで
ドレミ
ファイン
空の音

単著

『いつかの未来は夏の中』（1995年） - 第10回全国障害者ありのまま記録大賞詩部門大賞受賞作
『命いっぱいに、恋〜車いすのラブソング〜』（2004年） - 中学校家庭科教科書に採用
『車いすの歌姫―一度の命を抱きしめて―』（2010年）
『命いっぱいに、恋〜車いすのラブソング〜』（電子書籍版 2011年）
『写真詩集・零』（電子書籍版 2011年）
『バリアフリーのその先へ!――車いすの3.11』（2014年）

共著・原作他

『旅の森シリーズ わくわくバリアフリーの旅』（2000年）
漫画『命いっぱい、抱きしめて』（原作、2007年・続編2010年）
『身体をめぐるレッスン〜交錯する身体〜』（2007年）
* 『障害学研究2』（2006年）、『障害学研究5』（2008年）

朝霧裕氏の活動は、自身の困難を乗り越え、他者への深い共感を力に変え、社会のあり方を問い直すメッセージを私たちに届け続けています。

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